今日はデプリースト指揮のマーラーの交響曲第5番を(ナクソス)。昨年末に出たばかりのほやほやの新譜で、自分にとっても2006年のCDの買い納めとなった1枚だ。このCDの発売の予告が出た時、胸が高鳴ったのを憶えている。宇野功芳氏も絶賛したラフマニノフの交響曲第2番(フォンテック)を聴いて、そのナチュラルで包容力のある演奏に魅力を感じて以来、生の彼の演奏姿を昨年のサントリーホールでの東京都交響楽団の定期演奏会で確かめに行った。その時はモーツァルトとブルックナーの交響曲第2番という、これまた宇野氏が喜びそうなプログラム。CDでの印象そのままで、指揮者の恣意的な意図というものを感じない、ふわっと音が舞い降りてくるような、そんな自然体な演奏に好印象を持った。
もう一つの魅力はロンドン交響楽団による演奏、という点。まだ九州に居た2002年の秋に大分のグランドシアタで聴いた、ロンドン響の来日公演でのマーラーの5番の感動が忘れられない。その時の指揮はピエール・プーレーズ。大分公演というのが効を奏したのか、当日券でど真ん中のS席に座る幸運に恵まれた。トランペット奏者はテクニックとエネルギーを要するが、自分の敬愛するロンドン響の首席、モーリス・マーフィーの渾身の吹きっぷりも感動的だった。
そして今、その2つの魅力が一つになったCDが発売されたというわけだ。デプリーストは今やクラシック界だけでなく、ドラマ放映もされた「のだめカンタービレ」のモデル指揮者にもなっていて、日本のクラシック業界に果たした功績は大きなものがある。デプリーストは、幼少の頃、小児麻痺による後遺症で、車椅子での指揮というハンディキャップを抱えているが、彼のポジティブな生き方を見ていると元気づけられるし、応援したくなる。
録音は2005年4月、録音スタジオのメッカ、アビーロードでの録音。ロンドン響の定期演奏会後のスタジオ収録だが、このCDで嬉しいのは、ジャケットにもきちんとトランペット独奏に「モーリス・マーフィー」の名前がクレジットされている点。独奏者を称える姿勢が嬉しい。
マーラーでも上記のラフマニノフや、サントリーホールで実演に接した時の印象そのままの姿が目に浮かぶ。マーラーはとかくアグレッシブに演奏される事が多いが(それもまた個性だしよい点もあるが)、ここでも自然体ながら、盛り上げるべきところではきちんとデプリーストによって手綱が締められている。クライマックスでも決してうるさくなりすぎない所が耳にも心地よい。
有名な第4楽章はラフマニノフ2番の3楽章さながらで、ピアニッシモの叙情性もまさにデプリーストの得意とする所だと思う。モーリス・マーフィーの音にも久々に再会でき、個人的にも感動。
今年の春頃には実際に東京都交響楽団で、このマーラーの5番を振る予定があるようだ。これからも日本のクラシック業界に色々と新風と感動を与え続けてほしい。