季節は卒業シーズンから新入学シーズンへ。首都圏では桜の見ごろを迎えている。今回も前回に引き続き、ジャズ版「その②」として「いつか王子様が」をエントリーしたい。数多くのジャズ・プレーヤーがレコーディングを行っているが、棚から一つかみをしたところ、ミシェル・ペトルチアーニのデュオ盤以外にも、ピアノ・ソロからトリオ、はたまたヴォーカル&弦楽四重奏!まで4種類のユニークな音源が揃った。それぞれの「いつか王子様が」を堪能してみたい。(ジャケット画像:左上から時計回り)
【ピアノ・ソロ】
ルネ・ユルトルジェ(ピアノ)
(2006年録音、澤野工房海外盤)
アルバム「TENTATIVES」に収録。演奏は以前、マイルス・デイヴィスの作品にも関わった経験もあるフランス・ジャズ界の巨匠、ルネ・ユルトルジェ。それだけにハード系なイメージを持つが、この「いつか王子様が」の中では、シンプルな音作りの中に、年輪を重ねたベテランならではの味わいがある。ピアノ・ソロならではの特長と、熟練の味わいを持ち合わせた演奏。人々が寝静まりかえった夜に、ひっそりと聴きたくなる音源だ。
【ピアノ・トリオ】
ビル・エヴァンス(ピアノ)、Scott LaFaro(ベース)、Paul Motian(ドラムス)
(1959年12月28日録音、ビクター国内盤)
ジャズ界において、やはりこの人なしには語れないだろう。ピアノ・トリオによる「いつか王子様」の一つの典型像を創り上げたといえる演奏で、ビル・エヴァンス(1929-1980)の、スモーキーな味わいはまさにジャズそのものの。1960年代当時のモノラル録音ではあるものの、秀逸なリマスタリングが施されており、高音質で聴く事が出来るのが有難い。
【ピアノ&ギター・トリオ】
ルイス・ヴァン・ダイク(ピアノ)
ローゼンバーク・トリオ
(2003年録音、アメルスフォールト、オランダにて収録、ガッツプロダクション海外盤)
オランダの名ジャズピアニスト、ルイス・ヴァン・ダイク(b.1941)が、ギタートリオによるローゼンバーク・トリオと共演したライヴ録音。アルバム「LIVE」に収録。ローゼンバーグ・トリオはギター×2、ベース1の編成で、ジプシー・スウィングを持ち味とする兄弟&いとこによるトリオ。ドラムレスながら、ピアノと共に見事なグル―ヴを創り上げている。演奏はメドレー形式で、前半は「ブルース・イン・G」という曲がピアノソロで開始されるが、後半の「いつか王子様が」では、ギターも伴奏に加わり、徐々に熱く盛り上げってゆく。いわばラテン系「いつか王子様が」ともいえる演奏が、聴き手の心を浮き立たせてくれる。
【弦楽四重奏(ヴォーカル付)】
エベーヌ四重奏団
(2009~2010年録音、Virgin Classics海外盤)
今回エントリーしたディスクの中では最新盤となるもの。アルバム「FICTION」に収録。エベーヌ弦楽四重奏団は、1999年に結成されたフランスの若手弦楽四重奏団。他のアーティストとのコラボ曲が含まれたアルバムなのも興味がわくところ。冒頭、男声4名のヴォーカル4重奏によるアカペラの美しさにはっとさせられるが、なんと、エベーヌ四重奏団のメンバー達がハモっているというから驚かされる。弦楽器を外しても完璧にはハモれるのあたり、さすが四重奏団だが、声質も素晴らしい。本編の演奏には、ジャズのリズムが宿っており、第一ヴァイオリンが全体をリードする。そしてエンディングはまた男声ヴォーカルによって締めくくられる…。実に凝った進行スタイルだ。ヴォーカルがフランス語なのも、彼らのお国柄がよく出ている。