ロシアの作曲家、カプースチンの曲を初めて聴いた時の衝撃は大きかった。クラシックのジャンルにジャズとクロスオーバーさせた音楽が登場したとでもいうのだろうか、ジャズ系にも傾きつつあった当時の自分にとっては一瞬の内にハマってしまう要素がそこにはあった。それは例えばガーシュインのラプソディ・イン・ブルーのように、ジャズの香り漂う、というレベルを超えている音楽のように思う。
しかしカプースチンの曲にはジャズの要素がふんだんにあるとはいえ、そこはクラシック、楽譜に忠実な演奏が求められるわけで、アドリブが含まれるジャズとは厳密には違う・・・一体どんなアクロバットな楽譜なんだろう??
今回はこのカプースチンのアルバムをマルク-アンドレ・アムラン盤(’99年9月10-12日録音、ヘンリー・ウッドホール、ロンドンにて収録)とスティーブン・オズボーン盤('03年6月23・24・26日録音、ヘンリー・ウッド・ホールにて収録)の演奏で。いずれもお気に入りのレーベルの一つ、ハイペリオンからのリリースだ。
アムラン盤は初めてカプースチンの曲に出会ったアルバム。ヴィルトォーゾなどと表するどころではない、ピアノにも超人と呼ばれる人がいるのか、と思う程、その超絶ぶりに感動を覚えたものだ。実際、ハイペリオンではゴドフスキー編曲のショパンの練習曲集も録音しており、自他共に認める超絶技巧派ピアニストなのだろう。モントリオール生まれで今年46歳というから、クラシックの世界ではまだ若い世代。まさに期待の俊英だ。
カプースチンの音楽にはある種の陶酔感があるように思う。聴き手だけでなく弾き手をもふっと引き込んでしまう独特の妖しさが漂う、とでもいうのだろうか。ショスタコーヴィッチの作品にジャズ組曲というのはあるけれど、現代ロシアの作曲家が熱を入れたジャズ曲という成り立ちも興味深い。
オズボーンの演奏も漂ってくるのはカプースチンワールドとでもいうべきもの。この二枚を聴いて、ひとまずカプースチンの世界に浸れるのは間違いなしだ。アムランの他のアルバムを聴くきっかけにもなった。
ピアノは両者ともスタインウェイ。それぞれ、トニー・フォークナー、サイモン・イードンという腕利きのレコーディング・エンジニアによる高品位録音も素晴らしい。
ちなみに作曲家本人によるアルバムも日本のエクストンレーベルからリリースされている。カプースチンは1937年生まれというから今年御年70歳。本人もやはり超絶技巧の持ち主なのだろうか。いつの日か聴いてみたい。