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ある朝、出張先への移動でipodを聴いている最中、実に美しい旋律が頭の中をかけめぐった。曲名は「チェロとオーボエのためのエレヴァツィオン」(ジャケット画像:左)。8分ばかりの曲だが、そよ風のようなストリングスの伴奏にのって、オーボエとチェロが甘美な調べをたたえている。まるで映画音楽を聴いているかのようで、心の琴線に触れるものがあった。メインでフィーチャーされているのがオーボエのソロである事から、映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネ(b.1928)の代表曲の一つ、「ガブリエルのオーボエ」を感じさせる曲調だ。

この「チェロとオーボエのためのエレヴァツィオン」は、バロックの名曲が収録されたアルバム『A BAROQUE CELEBRATION』(Collins輸入盤)に収録された一曲。自分には初耳となる曲だが、この世にまだこんな美しいバロック音楽があったのか、と思わず感嘆してしまった。演奏はロバート・ハイドン・クラーク指揮、コンソート・オブ・ロンドンによるもの。以前、モーリス・マーフィーのディスクでも取り上げた団体で、バロックならではの瑞々しさが全面に出た演奏。オーボエとチェロの素晴らしいソロを奏でている奏者のプレーヤー名もディスクに記載してほしかった!

この曲を調べるうち、意外な発見をした。
まず、「チェロとオーボエのためのエレヴァツィオン」は、バッハやヘンデルと同時期に活躍したオルガニスト・イエズス会宣教師でもあるドメニコ・ツィポーリ(1688-1726)の作曲で、モリコーネと同郷のイタリアの作曲家であること。洗練されたメロディーが互いに似通っているのも納得できる。
また、今回取り上げたロバート・ハイドン・クラーク指揮、コンソート・オブ・ロンドン以外に、指揮者ジャン=フランソワ・パイヤールが率いる名門団体、パイヤール室内管弦楽団による音源も存在することを確認した。ここでの音源の記載が「オーボエ、チェロと弦楽合奏のためのアダージョ」(ツィポーリ/F.ジョバンニーニ編)となっている事から、F.ジョバンニーニという作曲家が、ツィポーリの原曲を弦楽合奏用に編曲したものである事が窺える。

そこで、先程のモリコーネの「ガブリエルのオーボエ」との間に、一つの仮定ができる。
「ガブリエルのオーボエ」は1986年に公開された映画「ミッション」の中のメインテーマだが、その映画「ミッション」はイエズス会宣教師の布教活動を取り上げたストーリー。ツィポーリ自身、イエズス会の宣教師として、南米に布教活動にあたっていた。
つまり、元々、鍵盤用の曲(曲からするとオルガン用の曲?)だったツィポーリの原曲を弦楽合奏でアレンジするにあたり、F.ジョバンニーニが、モリコーネ風にオーボエをメインフィーチャーした曲に仕上げたのではないか・・・と想定できる。
となると、ある意味、「チェロとオーボエのためのエレヴァツィオン」とタイトルのついたこの曲は、映画「ミッション」へのオマージュ、とも呼ぶことができるかもしれない。いずれにしても、興味深い。

「チェロとオーボエのためのエレヴァツィオン」を聴いた後、同じ弦楽合奏版での聴き比べを楽しむため、新イタリア合奏団による「ガブリエルのオーボエ」(DENON国内盤、2000年録音、コンタリーニ宮殿にて収録)を聴いてみた(ジャケット画像:右)。ここでの「ガブリエルのオーボエ」は、オーボエでなく、トランペットによって奏でられており、たっぷりとヴィブラートがかけられたイタリアらしい甘美なソロが味わえる。

癒しが求められる現代において、名曲と呼べる曲だと思う。現代においてはバッハやヘンデルの名前の陰に隠れながらも、素晴らしい曲はあまた存在する。そんな発見・発掘の喜びがあるのもクラシックの魅力(^^)