最近は猛暑も手伝ってか、ジャズを聴く頻度が増えてきた。中でもピアノとベースだけによるドラムレスな編成は静寂な深夜の空気にも合っていて心地がいい。
前回エントリーした「Hope」で名コンビぶりを発揮したクリスチャン・ジェイコブ(ピアノ)とテリエ・ゲヴェルト(ベース)とは3枚のアルバムをリリースしているのを知り、内一枚を新たに入手。
アルバム・タイトルは「Duality」('01年4月録音、オスロにて収録、Resonant輸入盤)。ここでも心の琴線に触れるサウンドが…。
それは自分の大好きな英国作曲家の一人、サー・ウィリアム・ウォルトン(1902~1983)の1944年の作品、『やさしき唇にふれて、別れなん』(英題「Touch Her Soft Lips And Part」)だった。元々「ヘンリー5世」という映画音楽の為に作曲されており、それをウォルトン自身が「弦楽のための2つの小品」という作品にまとめたという。自分自身、バレンボイム&イギリス室内管弦楽団によるオリジナルのオケ版を最初に聴いて感銘を受けた曲。
この曲のメロディーがアルバムから聴こえてきた時、一瞬自分の耳を疑った。ウォルトンの秘曲ともいえる曲がジャズ・サウンドで鳴っているなんて!不通のジャズ・ミュージシャンではカバーするとは考えられない曲だ。元々クラシック畑でスタートしたジェイコブならではの選曲なのだと思う。クラシックとジャズを融合した視点でサウンドを奏でる彼のセンスにも脱帽させられる。
ウォルトンというと「クラウン・インペリアル」や「王冠と宝王の杖」など、イギリス王室に献呈したゴージャスなフル・オケサウンドをまず思い浮かべるが、この『やさしき唇にふれて、別れなん』はタイトルからも伺えるように感傷的で切ないメロディーに心を打たれてしまう。どちらが真のウォルトンの姿なのか…。
このアルバムには1曲目にあの名曲「The Water Is Wide」も収録。「Hope」ではライブ録音ならではの良さが出ていたが、このセッション録音では、ジェイコブとゲヴェルト双方がピアノ&ベースから生み出される音にじっくり耳を傾けながら深い呼吸をした演奏に仕上がっており、プレイとしての充実度はより高くなっているように思う。「Hope」盤と共に手放せない名盤だ。