i-Pod等の普及により、今や音楽をケータイする事は日常の光景となりつつある。たとえ通勤や通学時の満員電車の中でもイヤホンから漏れてくるシャカシャカ音はその象徴。その場合、大体はロック系の音楽である事が多く、一定に刻まれるリズム音に周囲の人たちはストレスを感じる事も多いはずだ。
しかし、クラシック愛好家にとっては事情は一変する。周りの騒音で、むしろイヤホンから出てくるサウンドがかき消されてしまう事が多いのだ。自分はノイズキャンセリングヘッドフォンも所有しているが音質が硬くなる傾向があるので、新幹線や特急等の特別な場合を除き、ヘッドフォンそのもので電車内で聴くことはあまり好まない方だ。
むしろ、クラシック愛好家はどれ位の方がモバイル音楽をしているのだろう?と思うことがある。あのうるさい環境下で難なく聴いているとしたら、その人にとっては鑑賞としてのクラシックではなく、消費としての音楽に過ぎないもののような気もする。自分自身、移動の時間つぶしとして聴く事はもちろんあるのだが・・・。
今日の朝の通勤電車内でも音が漏れてくるのが聞こえた。しかし、それはいつものロックのサウンドではなく、クラシックだった。朗々とメロディーを歌うフルートの音色。周囲の誰が聴いているのかは分かる状況にはないが、おそらくバロック系なのだろう、朝にフルートとは中々いい趣味だな、とつい思ってしまった。
前置きが長くなったが、今日はそれにヒントを得て棚からひとつかみ・・・。深夜に聴くフルートもいいものだ。曲はバッハのフルートソナタ。演奏はフルートがウィリアム・ベネット、チェンバロがジョージ・マルコムというベテランコンビだ。78年頃の録音と思われるもので、録音もステレオ後期でとびきりいい音で鳴ってくれる。
元々このCDはチェンバロのジョージ・マルコムに敬愛の念を抱いて購入したものだ。アンドラーシュ・シフの師匠でもあり、グスタフ・レオンハルトと共に気に入っている。残念ながら今は故人となってしまった。一方、ベネットはロンドン響やロイヤル・フィル、アカデミー室内管など、イギリスの名門オケをポストを歴任してきたベテラン。とにかくその音は美しい。まずは一聴してほしい。最近では管楽器愛好家の雑誌、「パイパーズ」などでも取材を受けており、その活躍ぶりは健在のようだ。
このフルートソナタはフルート+チェンバロの編成やチェロも加わる編成もあり、ヴァイオリン・ソナタとはまた一味違った華やかさがある。
自分にとってはやっぱり通勤電車でなく、深夜に自宅でじっくり聴く鑑賞スタイルが一番だ。