ロシアン・ナイトに戻って、今宵、第三夜は日本のオケによる演奏を。ローカルエリアで元気のいいオケの一つ、九州交響楽団(通称:九響)によるロシアン・アルバム('06年3月 末永文化センターにて収録、FONTEC国内盤)を聴く。
3年間滞在した九州赴任時には博多の中心街、天神にあるアクロス福岡シンフォニーホールで、九響のコンサートをよく聴いたものだ。
在京オケより編成はやや小ぶりながらも、当時の常任指揮者、大山平一郎氏の元で味わい深く、元気の良い演奏を聴かせてくれていた。大山氏はカルロ・マリア・ジュリーニやアンドレ・プレヴィン在任期にロサンゼルス・フィルで首席ヴィオラ奏者を務めていたキャリアがあり、そんな巨匠達の影響もあるのかもしれない。
指揮の小泉和裕氏はその昔、東京都交響楽団の演奏で聴いた事がある。このアルバムは'89~'96年の九州交響楽団の首席指揮者就任の縁からも実現したようだ。
収録曲は以下の通り。
①グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
②グラズノフ:『四季』~バッカナール、小アダージョ
③ボロディン:交響詩『中央アジアの草原にて』
④ラフマニノフ:ヴォカリーズ(ヴァイオリン:扇谷泰朋)*
⑤リャードフ:ババヤーガ Op.56
⑥ムソルグスキー / R.-コルサコフ編:交響詩『はげ山の一夜』
⑦ハチャトゥリアン:『ガイーヌ』~
(剣の舞、子守歌、バラの乙女たちの踊り、レスギンカ)
⑧プロコフィエフ:歌劇『3つのオレンジへの恋』~行進曲
⑨チャイコフスキー:序曲『1812年』 Op.49
ロジェストヴェンスキー、プレヴィンが4曲収録だったのに対し、9曲というCDの容量をフルに生かした収録である事、そして何より主要な人気曲がまんべんなく収められているのが嬉しい。小泉&九響の演奏にはロシア的な重々しさは感じないが、洗練されたサウンドで、海外オケや国内在京オケとも充分比肩しうるレベルに達している。九響のエネルギッシュなパワーを感じる演奏だ。
聴き比べという点でも①はプレヴィンのアルバム、⑥はロジェストヴェンスキー、プレヴィン双方に収録されている。昨日のN響アワーでも「はげ山の一夜」が放送されていたが、我々日本人にとっては特に人気曲のようだ。日本人向けを意識した、と感じるのは③と④の選曲。
③は「だったん人の踊り」の作曲家ボロディンによる曲だが、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」に似たアジア風な旋律が何ともいえない郷愁を誘う。
④も有名な曲だけに様々な編曲版があるが、ここではオケをバックにしたヴァイオリン・ソロ版。ヴァイオリンはコンサートマスターの扇谷泰朋氏の演奏によるものだが、希望をいえばもう少し哀愁を帯びた歌い回しがほしかった。
⑤のような初耳曲もある。タイトルの「ババヤーガ」はムソルグスキーの「展覧会の絵」にも「ババヤーガの小屋」として出てくる。
⑦は「剣の舞」のテンポ感は良かったが、もう一つの見せ場である「レスギンカ」では少し息切れしたようになってしまった。こういうテンポ感のある曲は指揮者の手腕による所が大きい曲だ。
FONTECの録音はいつもながらに優秀。収録会場はオケの練習会場との事だが、通常のコンサートホールと同様、残響成分をうまく取り込む事に成功している。
ローカルオケにスポットを当てた名盤の一例としては、過去ブログにもコメントした山下一史指揮&札幌交響楽団のものや、カール・ライスターとの共演で一躍有名になった豊田耕児指揮&群馬交響楽団のものがある。
近頃、名曲系のアルバムは大手レーベルがコンピレーションアルバムという位置付で、過去の音源に頼りきりとなっており、ジャケットも粗悪なものとなっている。個人的にはセッション録音で丹念に制作されたFONTECの意気込みは大いに評価したい。
今回のように、地方オケにもスポットをあてた国内レーベルならではの展開も益々期待したいものだ。地元だけでなく、転勤で、九州まで聴きにいきたくても行けなくなってしまった自分のようなサラリーマンもいるのだから(^^)