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今年はショパン生誕200年と、ショパン国際ピアノコンクールの開催年で、クラシックの世界では、ショパン(1810~1849)が何かと話題となった一年だったが、もう一人の大作曲家、シューマン(1810~1856)の生誕200年のアニバーサリーイヤーでもあった。本ブログでも過去、「交響的練習曲」、「ピアノ協奏曲」や、「交響曲第1番“春”」、本年2月に聴いた東京シティ・フィルによる「交響曲第4番」のライヴに接してきたが、今年一年の締めくくりにシューマンの作品をエントリーしたい。

曲は「ピアノ5重奏曲 変ホ長調 作品44」。これまで数々の団体によるピアノ5重奏曲を聴いてきた(ライヴの模様もかつてエントリーしていた)が、フランス出身の名ピアニスト、フィリップ・アントルモン(b.1934)と、惜しくも2008年に解散したウィーンのアルバン・ベルク四重奏団によるアルバム(EMI国内盤)は、かねてからのマイベスト盤となっている。

その理由の一つは、ライヴ録音となっている点。彼らが1985年にアメリカ演奏旅行をした際の3月11日のニューヨーク、カーネギー・ホールでの収録で、ヨーロッパの名団体ならではの流麗でみずみずしい響きに、ライヴならでの即興性が加わった快演となっている。
1楽章冒頭からテンションの高さにまず耳を奪われる。どことなく作曲者の不安定な精神性も感じる葬送行進曲風の2楽章では、中間部のヴァイオリンの旋律の美しさに心が癒される。ここでのソロは、現在は指揮者としても活躍している第一ヴァイオリンのギュンター・ピヒラーだろう。
テンションの高さという点では、3楽章の白熱ぶりが凄まじい。音階を一気に駆け上がるアントルモンのピアノに一糸乱れず掛け合うストリングス。まるでピアノとストリングスが張り合っているバトル的な要素があり、手に汗握るスリリングな展開で、4分47秒というスピードで一気に駆け抜けており、本ディスク最大の聴き所となっている。彼らの熱演に聴衆も熱狂したのだろう、3楽章が終わった途端に拍手が沸き起こるというハプニング(?)も。そして終楽章はそれまでの集大成というべき完成度の高さ。終結部の二重フーガは、モーツァルトの「ジュピター」の終楽章のような壮麗さを感じさせるものがあり、シンフォニーを聴いているかのような密度の高い充実感がある。

アントルモンといえば、アシュケナージ(b.1937)やプレトニョフ(b.1957)同様、ピアニストだけでなく指揮者としても手腕を発揮しており、本ブログでもかつてチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」をエントリーしているが、ここでは51歳当時の油の乗り切ったピアノが聴ける。まさに両者の信頼関係なしにはあり得なかった名演だろう。
当夜の興奮ぶりはジャケット画像のカーネギーホールの正面玄関に写った聴衆の姿からも窺えるようだ。なお、このライヴ音源にはシューマンと共に演奏されたモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番ハ長調「不協和音」も収められているのが嬉しい。