今年の干支は酉年、鳥にまつわる曲としてバレエ組曲「火の鳥」を。ストラヴィンスキー作品の中でも人気曲の一つだが、個人的に好きな楽曲は「魔王カスチェイの凶悪な踊り」と「終曲」。「魔王カスチェイの凶悪な踊り」は不気味な雰囲気と、それを際立たせる快速なテンポ感、「終曲」は終結部に向かって築かれるクライマックスをいかに再現できるかが最大の聴き所といえるだろう。いずれも映像が浮かび上がるような曲展開はどこか映画音楽のようでもある。
これらの要素を見事に再現しているこだクラ一押しのマイベスト盤はネーメ・ヤルヴィ指揮によるロンドン交響楽団盤(1988年7月録音、セント・ジュード教会にて収録、CHANDOS海外盤)。難易度の高いパッセージも難なく切り抜け、スリリング且つスペクタクルな音響絵巻が展開される。それはあたかも「スター・ウォーズ」の一シーンを聴いているかのようだ。ロンドン響といえばそのスター・ウォーズを含め、映画のサントラでも常連のオケだが、このようなスペクタクルな作風のスコアの再現は彼らにとってまさにうってつけともいえる。特に、トランペット・セクションにはこの頃モーリス・マーフィーやロッド・フランクスがいただけに、両者のゴールデン・コンビの音も際立っている。なお、ここで演奏された「火の鳥」は1945年版の組曲で、終結部のトランペットの和音がスタッカートのような歯切れが加わった処理が施されているのが特徴。定番の1919年版とは異なる版を使用しているあたり、ヤルヴィらしい選択といえるだろう。スペクタクルな音場感を併せ持った優秀な録音も特筆したい。
また、本アルバムには余白にリムスキー=コルサコフの管弦楽曲「ドゥビヌーシカ」(1905年作品)が収録。これがまた逸品!途中、トランペット・ソロがあるが、この音はロッド・フランクスの音のようだ。リムスキー=コルサコフの隠れた名曲の存在を知ったのも思わぬ収穫だった。