夏が終わる前に、エントリーしておこうと思っていた曲があった。リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」。曲の題材からも、夏にぴったりな曲。前回のエントリーしたムソルグスキーと同様、ロシア5人組の一人だが、生前演奏されることのなかったムソルグスキーの「展覧会の絵」のピアノ譜を発見したのはリムスキー=コルサコフだった。「シェエラザード」は「ロシアの復活祭」や「スペイン奇想曲」と並んで自分にとっても好きな曲。
「シェへラザード」のディスクは数枚所有しているが、自分の好きなコンサートマスターの一人、デヴィッド・ノーランのヴァイオリン・ソロを味わうべく、ロンドン・フィル盤を聴く。
○リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」
デヴィッド・ノーラン(ヴァイオリン)
アンドリュー・リットン指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(1988年4月録音、St Augustine's Church、Kilburnにて収録、Virgin Classics輸入盤)
ヴァイオリンが、あのクラウス・テンシュテットの在任時代を支えたコンマスのデヴィッド・ノーランという事で、思わず手を取ってしまったディスク。ロンドン・フィルによるシェヘラザードの録音も、ディスク上ではあまり聴いた事がないだけに貴重。ヴァイオリン・ソロは、各オケともコンサートマスターが演奏するのが通常で、オケのサウンドカラーはもちろん、コンマスの個性を感じ取れる曲にもなっている。
荒々しいシャリアールの王のテーマで開始される1楽章の『海とシンドバッドの船』から、ロンドン・フィルが重厚なサウンドを聴かせてくれる。録音年の1988年というと、まだテンシュテットが桂冠指揮者として指揮をしていた時期でもあり、彼が作り上げたドイツ的な重厚感が当時のロンドン・フィルの中にも備わっているのかもしれない。
ノーランのソロは繊細ながら美音。過度な演出はなく、シェヘラザードという女性のみずみずしさが、音でも見事に奏でられている。そんな女性らしさ、美しさをヴァイオリン・ソロでいかに奏でられるかが、コンサート・マスターの腕の見せ所でもあるのだろう。
録音会場に教会というロケーションを選択したのも制作サイドの狙いが見て取れる。通常のホールよりも多めの残響成分を取り込んでいるため、音響的にも最適。ここでのヴァイオリン・ソロはオンマイクになっておらず、オケとの溶け合い方も絶妙だ。特に、有名な3楽章の『若い王子と王女』はストリングスの美しい響きに浸れるのも嬉しい。夏に聴くと納涼気分を味わえるし、その美しい旋律を聴くだけで、日々の疲れを癒してくれる一服の清涼剤にもなってくれる。中学生の頃、服部克久の「新世界紀行」のサントラに収録されていたこともあって、この楽章は特に親しんでいたものだった。
一方、4楽章の『バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲』 は1楽章と同様、ロンドン・フィルの重厚感が炸裂。後半の海のシーンでのフルサウンドは、ストーリーのスリリングさと相まって、ワーグナー張りの雄大さを感じさせるものがある。録音時、アンドリュー・リットン(b.1959)はまだ29歳という若さながら、ロンドン・フィルから見事なサウンドを引き出すことに成功している。当時から新進気鋭の指揮者としての力量を感じさせる。
なお、カップリングにはラヴェルの「ボレロ」が収録。なぜロシアの作曲家の作品の後に「ボレロ」が収録されているの?と思ったが、実際に聴いてみると、意外にもマッチしている(^^) リムスキー=コルサコフのオーケストレーションの巧みさ、華麗さはまさに、オーケストラの魔術師と呼ばれたラヴェルさながらで、そのあたりがこのアルバムのコンセプトだったのかもしれない。楽しんで聴くことができた(^^)