きらびやかなパッセージと曲名さながらの華やかな演奏効果、全楽器に求められるソリスティックな超絶技巧…クロード・トーマス・スミス(1932-1987)の「華麗なる舞曲」(1986年作)は、「フェスティヴァル・ヴァリエーション」(1982年作)と共に彼の代表作であり、吹奏楽の限界に挑んだ作品の一つといえるだろう。
スミスの一連の作品を聴いて感じるのは、作品から溢れ出る生命力。パンチの聴いたリズムとテンポ感は、聴き手を引き込む力に満ちている。自分自身、スミスの曲を聴いていると活力が沸いてくるので、朝の通勤時間にも好んで聴いている。実力ある演奏団体にとっては格好のショー・ピースともいえる。
スミス自身がホルン奏者だった事も手伝って、特に金管楽器には難易度の高い超絶技巧が数多く散りばめられており、金管奏者からは、一目置かれている作曲家でもある。それだけに55歳という若さでの急逝が惜しまれてならない。今回、所有する4枚の音源と1枚の映像を聴き比べてみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
○ジェイムズ・M・バンクヘッド中佐指揮 東京佼成ウィンド・オーケストラ
(1991年1月録音、普門館にて収録、佼成出版社国内盤)
初めて「華麗なる舞曲」を実演で聴いたのが、高校2年の冬に聴いた東京佼成ウィンド・オケの定期演奏会だった。彼らの実演はこの時が初めてだったが、きっかけは「華麗なる舞曲」がオープニングにプログラミングされていた点。他に、トランペット奏者のアレン・ヴィズッティ(b.1952)によるコンチェルトや、メインにショスタコーヴィチの交響曲第5番「革命」の吹奏楽版が据えられており、当時、吹奏楽少年だった自分にとっては、実に興味深いプログラミングだった。
ここでは、初演を務めたアメリカ空軍ワシントンD.C.バンドのジェイムズ・M・バンクヘッド中佐の指揮によるものだが、全体的な印象としてはスリリングさに欠け、危なげのない中庸な演奏という印象。その後に出現した名盤と比較すると、どこかもの足りなさが残る。
○ロバート・E・フォスター指揮 カンザス大学シンフォニック・バンド
(録音・会場不明、ウィンゲート・ジョーンズ・ミュージック海外盤)
大阪市音楽団による最新盤と出会うまで、一位に君臨していたお気に入り盤。些細なミスを恐れず、推進力を持ったスミス作品の核心を見事に体現した演奏で、大学のウィンド・バンドとは思えない名演を聴かせてくれる。スミスの音楽観は、若手のフレッシュな感性に見合っているのかもしれない。
そういえば、母校、都立西高OB吹奏楽団の定期演奏会で、かつて、スミス作品の一つ、「ルイ・ブージュワ―の賛歌による変奏曲」(1985年作)を取り上げ、熱演を聴かせてくれた事を思い出した。いつかOBになってスミス作品を演奏できたら…と憧れたものだ。実況録音なのか、録音状態が今一つなのが惜しい。
○飯森範親指揮 大阪市音楽団
(2009年6月録音、ザ・シンフォニー・ホールにて収録、フォンテック国内盤)
録音状態も含め、現状でのマイベスト盤。最近は「のだめカンタービレ」のサントラで、のだめオケを指揮した事でも話題となった飯森範親氏(b.1963)が、関西の名門、大阪市音楽団と繰り広げたライヴ盤。日本のウィンド・オケのレベルの高さを実証した名演で、テクニカル・パッションの高さはピカ一。ライヴという環境下を、高い集中力で見事に乗り越えている。
冒頭から頭をかき回されるような快速テンポ。何と8分33秒でこの曲を駆け抜けている!東京佼成盤が9分50秒、カンザス大学盤が8分50秒。大阪市音楽団より快速な演奏があれば聴いてみたいものだ。終演後の熱狂的な拍手を聴くと、スミス作品は大阪人の気質にあってるのかも(?)とつい思ってしまう。
○加養浩幸指揮 土気シビック・ウィンド・オーケストラ
(2004年2月録音、芝山文化センターにて収録、CAFUA国内盤)
以前、「キャンディード序曲」でエントリーした社会人のウィンド・オケ。全国コンクール常連校の土気中学が母体となっている事もあるのだろう、アマチュアながらレベルの高い演奏を聴かせ、技術力の高さを窺わせる。
○宮本輝紀指揮 洛南高校吹奏楽部
(1992年10月録音、普門館にて収録、BRAIN MUSIC国内盤)
最後に映像ものを。1992年、当時高校3年だった自分にとって、全日本吹奏楽コンクールで金賞に輝いた京都の洛南高校吹奏楽部の取り上げた自由曲がこの「華麗なる舞曲」だったのは、ある意味カルチャーショックだった。高校生が「華麗なる舞曲」をコンクール曲として選ぶなんて!その当時の映像がDVD「この素晴らしい世界」に収められている。コンクール上の演奏時間の制約の為に、後半部が一部省略されているが、まさに一糸乱れぬ演奏。男子校ならではの颯爽とした姿は、まるで自衛隊の音楽隊のようだ。名門、淀川工業高校吹奏楽部の丸谷明夫氏と同様、指揮者の宮本輝紀氏の存在は大きかったに違いない。直近の様子は以前、TV番組「所さんの笑ってこらえて」でも取材されていた。この洛南高校には親友が通っていたので親近感を覚える。