画像

快晴の青空の5月連休の二日目、ドイツ・シャルプラッテンレーベルで数々の名盤を残しているペーター・レーゼルの来日公演を聴く。(4月29日紀尾井ホール)本番一週間前に慌ててチケットを購入、何とか完売直前に入手する事ができた。初めてレーゼルの演奏を録音で聴いたのがちょうど4年前。既にレーゼル関連だけで40枚近くにCDが及ぼうとしている(ブログでもシューマンのピアノ協奏曲をエントリー)が、CDでの感動を是非生演奏でも、との思いがついに実現した。日本では実に30年ぶりとなるリサイタルだという。

プログラムはハイドン、ベートーベン、シューベルトの3大作曲家の最後のソナタという、実に堂の入ったもの。満席の聴衆の拍手に迎えられてレーゼルが登場。白髪で背が高く、落ち着いた振る舞いぶりだ。

プログラムの曲順は以下の通り。
①ハイドン:ピアノ・ソナタ 第52番 変ホ長調
②ベートーベン:ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調
          (休憩)
③シューベルト ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調
アンコール3曲

一曲目のハイドンから一点の曇りもない、堂々たる演奏。ハイドンはどちらかといえばモーツァルト同様、軽めの演奏が昨今主流だが、レーゼルの演奏には腰を据えた重心がある。かといって音楽が重々しくなる事はなく、常に前に進む推進力が備わっている。CDで感じていたメロディーラインが浮かび上がるようなクリアなタッチ感を生演奏でも感じ、感心する。

二楽章しかないベートーヴェンのソナタではいよいよレーゼルの本領発揮。ここでも質実剛健そのもの。オーソドックスではあるが、ドイツ本流のピアニズムというものが伝わってくる。
二楽章の中間に出てくるジャズっぽいメロディーはどこかで聴いた事がある・・・・映画「ベートーヴェン」で演奏されていたシーンを思い出した。

シューベルトは4楽章の大曲。今までとっつくにくさをシューベルトのソナタには感じていたが、後半の二つの楽章は初めてでも聴きやすく一気に聴きとおせた。

拍手喝采のアンコールは3曲を演奏。内一曲はバッハの「主よ人の望みの喜びよ」は起承転結のはっきりした展開。まるで一つのソナタを弾き上げるような構成感にも感心させられた。

プログラムに印象に残る言葉があった。音楽家として一番大切なのは「人々を楽しませるのではなく人々をより良くしたい」というヘンデルの言葉を引用して本演奏会に寄せたレーゼルのコメントだ。楽しませるという次元を超えた演奏行為というものにレーゼルの演奏哲学を感じさせられる。

スタインウェイがレーゼルの要求に自在に応えていた事も特筆しておきたい。

05年に紀尾井シンフォニエッタ東京がヨーロッパ公演でレーゼルとベートーヴェンの協奏曲全曲で共演、同じ紀尾井ブランドを持つ本場のホールだけに、今回の来日公演への機会になっているのかもしれない。既に来年9月に再来日、同オケとの共演も決まっているという。レーゼルは45年生まれだから今年62歳。日本でいえば団塊の世代に当たる。数少ないドイツの正統派ピアニストとして今後の更なる活躍を期待したい。