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何の自慢にもならないが、人気ロール・プレイングゲーム上の「ドラゴンクエスト」(通称:ドラクエ)は今までプレイしたことはない。しかしながら、ドラクエのサントラは昔から好きで、サントラのほぼ100%を所有している。なぜか?それは、サントラにオーケストラ・ヴァージョンが存在するからに他ならない。現代において、ゲーム音楽が映画音楽と並んで広く聴かれるようになったのは、ひとえにオーケストラによる表現力が大きい。その立役者が、作曲者のすぎやまこういち氏であり、以前、「ファイナルファンタジー」のサントラでもエントリーした植松伸夫氏だと思う。コンサートでは、以前、東京都交響楽団の金管メンバーによる東京メトロポリタン・ブラス・クインテットを聴いた事があるが、ドラクエの音楽には「スター・ウォーズ」を聴くような爽快感がある。今回は、そんなドラクエを世間に知らしめたシリーズ第1、2作のサントラをエントリーしてみたい。

【交響組曲 ドラゴンクエストⅠ】
■すぎやまこういち指揮 東京弦楽合奏団
 (1986年8月7日録音、バリオホールにて収録、①アポロン音楽工業②キングレコード/国内盤)
■すぎやまこういち指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1991年9月、1993年5月、1996年5月録音、CTS STUDIOSにて収録、③アニプレックス国内盤)
■すぎやまこういち指揮 東京都交響楽団
 (2006年6月録音、江戸川区総合文化センターにて収録、④キングレコード国内盤)
※ジャケット画像:左上より時計回りに①~④


ドラクエの原点ここにあり、といえるシリーズ全体の核となる作品。現在、3種の音源が存在するが、中でも、東京弦楽合奏団盤は、記念すべきサントラの第1号で、あまりの懐かしさに自分自身、初期盤(アポロン音楽工業)と再発盤(キングレコード)を2種類を所有している。東京弦楽合奏団は、NHK交響楽団の室内オケともいうべき合奏団。これにトランペット(2名)、ホルン(4名)、パーカッション(1名)のメンバーを加えた特別編成の形態が取られている。メンバー表を改めて眺めてみると、元N響コンサートマスターの徳永二男氏、トランペットには元首席奏者の祖堅方正らのそうそうたる顔触れが並んでいる。ストリングスが全部で13名と少ない分、バランス的に金管楽器のパワーが目立つが、当時、吹奏楽&クラシック少年だった自分には、金管楽器の活躍が実にかっこよく感じたし、ゲーム音楽がオーケストラによって表現されたドラクエの音楽に開眼するきっかけとなった。

中でも、ドラクエの“顔”ともいうべき「序曲」は、各シリーズのサントラの第1曲にも必ず登場するマーチ形式の音楽(その後、「ドラゴンクエスト・マーチと名を変えて登場)だが、シリーズ第1作の「序曲」は、演奏時間も約4分と長く、元祖ドラクエのテーマを堪能できる意味で、個人的には最もお気に入りの曲。特に、ロンドン・フィル盤の「序曲」はマイベスト盤で、冒頭のホルン・セクションのファンファーレから聴き所。都響盤も素晴らしいが、ロンドン・フィルのサウンドは、やはり本場ヨーロッパのオケと感じさせるに充分なサウンドの厚み有しており、すぎやま氏が、海外オケを起用した理由も分かるような気がする。同様に、「フィナーレ」も、やはりロンドン・フィル盤が一番。対旋律でのホルンの朗々とした吹きっぷりは、まるでワーグナーを聴いているかのような雄大さがあり、なるほど、ワーグナーを得意としていたテンシュテットに鍛えられたオケだけの事はある、と感じた。なお、「フィナーレ」冒頭のファンファーレは、ロンドン・フィル盤、都響盤共、東京弦楽合奏団盤に比べ、よりグレードアップしたファンファーレとなっていたり、「広野を行く」では、ロンドン・フィル盤、都響盤共に、冒頭の主旋律がストリングスからオーボエに替わる等の改編が行われている。後にこの曲が、ドビュッシーの「パスピエ」にそっくり、と思ったのは自分だけではないだろう。

3種の音源の最新録音となる都響盤は、実に洗練された演奏。作曲者の意図を汲み取った見事な演奏で応えており、すぎやま氏の都響への信頼ぶりが窺えるサントラに仕上がっている。全体の統一感よりも、響きや個々の音の厚みで乗り切ってしまう部分もあるロンドン・フィル盤に対し、都響盤は細部と全体のバランスが統率されており、都響の持ち味が充分に出ていると感じた。これはある意味、海外オケと日本のオケのサウンドの傾向ともいえるかもしれない。個人的には、「ラダドーム城」において、ストリングスの表現がややソリッド気味なのが気になったが、これはすぎやま氏の意向によるものなのだろう。都響盤には特典にはオケによるME(音楽効果音)が収録されているのもポイント。

録音については、東京弦楽合奏団盤は残響可変が可能なバリオホールで、最大値の残響で収録され、また収録機材にも当時の最高機材を使用とのこだわりが初期盤には記載されている。ロンドン・フィル盤はスタジオ収録だけに、ややデッドだが、都響盤はナチュラルな音響となっている。

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【交響組曲ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々】
■すぎやまこういち指揮 東京弦楽合奏団
 (1986年11月録音、大平スタジオにて収録、 ①アポロン音楽工業②キングレコード/国内盤)
■すぎやまこういち指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1991年9月、1993年5月、1996年5月録音、CTS STUDIOSにて収録、③アニプレックス国内盤)
■すぎやまこういち指揮 東京都交響楽団
 (2004年8~9月録音、江戸川区総合文化センターにて収録、④アニプレックス国内盤)
※ジャケット画像:左上より時計回りに①~④


ドラクエⅡのサントラ第1弾として引き続き登場した東京弦楽合奏団盤は、ドラクエⅠと比べ、ドラム体が加わったバッキング・セクションが加わり、より華やかなサントラになった。演奏陣には、スタジオミュージシャンとして著名なトランペットの数原晋氏の名前も。
まず、第1曲の「ドラゴンクエスト・マーチ」は、3種の音源それぞれにアレンジが異なっているのが興味深い。録音年代からいくと、スネアが入ってより勇壮になった都響盤が最終ヴァージョンなのだろう。「王城」はすぎやま氏自身、「G線上のアリア」を意識した大変美しい曲。前半が弦楽四重奏、後半が弦楽合奏によってしっとりと奏でられる。ここは、ヨーロッパの田園風景を感じさせるようなロンドン・フィル盤が巧い。
一方、「街の賑わい」は、ポップス調のノリが求められる曲。前半ではロンドン・フィル盤のノリが一歩上手か?と思ったが、後半部分では都響盤のトランペット・セクションの巧さが光り、全体の印象としては都響盤が勝っている感じ。
レクイエム」は、いわばバーバーの「弦楽のためのアダージョ」の日本版というべきか。「王城」と共に、ストリングスのみのシンプルな曲でありながら、とてもゲーム音楽とは思えない高い完成度がある。「戦い~死を賭して」はテンポ感、アンサンブルに秀でた都響の方に軍配が上がる。

最終曲の「この道わが旅」(英題:My Road My Journey)は、ドラクエが生んだ傑作。曲名からしても日本版「マイ・ウェイ」と言える曲で、何度聴いても感動的な曲だ。ロンドン・フィル盤、都響盤ではオケ・バージョンとなっているが、この曲はドラムによるバッキング・セクションとピアノが加わり、インストルメンタル調の味わいのある東京弦楽合奏団盤が個人的にはお気に入り。途中の数原氏によるトランペット・ソロも実に味わい深い。

なお、ロンドン・フィル盤と都響盤には、東京弦楽合奏団盤にはない「パストラール~カタストロフ」という曲が収録されているのも貴重だ。