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ウィーン・フィル編米国オケ編英国オケ編英国室内オケ編に続き、締めくくりとしてウィーン・フィルと英国を除いたその他の欧州オケ編を。今回、エリア別にオケを分類して、「ジュピター」収録のディスクが30枚にのぼっていたことには自分自身も驚いた。過去、「G線上のアリア」をエントリーした際もやはり30枚だったが、改めて指揮者や演奏団体毎の違いを堪能できる興味深い機会となった。その中からマイベスト盤を見つける楽しみも深まるものだ。さて、今回の欧州オケ編のマイベスト盤はいかに?(ジャケット画像:上下2段 左上より右回り)

【オーストリア】
■フェレンツ・フリッチャイ指揮 ウィーン交響楽団
 (1961年3月録音、ムジークフェラインザール、ウィーンにて収録、グラモフォン国内盤


早世したフリッチャイ(1914~1963)が晩年に残したレコーディングの一つ。フリッチャイの意志を感じる引き締まった演奏で(当時、白血病に侵されていた事とは裏腹に)、溌剌とした元気の良さが印象的。あえていえばストリングスがやや平坦で、もう少し柔軟性を求めたい所に、ウィーン・フィルとの違いを感じてしまうのは致し方ないかもしれない。録音マイクや年代の影響だろうか、各楽器が鮮明に出たやや堅めの音質だが、今でもクリアに聴ける。

【オランダ】
■ジョージ・セル指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 (1958年8月録音、モーツァルテウム、ザルツブルクにて収録、オルフェオ海外盤)


1958年のザルツブルク音楽祭での貴重なライヴ録音。ここでの聴き所は、第4楽章だろう。骨格は米国編でエントリーしたクリーブランド管と同一で、コンセルトヘボウ管がセルによって徹底したアンサンブルに磨き抜かれているのが分かる。室内楽的なまとまりの良さは、まるでクリーブランド管のセッションを実演で聴いているかのよう。改めてセルはセッション録音であってもライヴであっても芯がぶれない指揮者だと思う。モノラル音源だが是非ステレオ録音で聴いてみたかった。

【ドイツ】
■ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
 ①1980年6月録音、ヘラクレスザール、ミュンヘンにて収録、SONY原盤:ESOTERIC国内盤
 ②1985年5月録音、ヘラクレスザール、ミュンヘンにて収録、ORFEO海外盤


①セッション録音盤
1980年代初頭にCBSにレコーディングした後期6大交響曲の中の一つで、自分自身、晩年のワルター&コロンビア響のレコーディングと共に学生時代から愛聴している音源。実に均整なバランスの取れた演奏で、かねてより名盤と評されている理由もよく分かる。ライヴ盤で垣間見られるクーベリックならではの主張は前面に出ておらず、客観的に捉えたモーツァルトで、弦の響きは明るく南独らしさが漂う。弦を対抗配置にしている点にも注目だ。今回はオーディオメーカーのESOTERICによる高品位なリマスタリングによって、厚みのある音に蘇ったのが嬉しい。

②ライヴ盤
おどろおどろしく始まる第1楽章の冒頭を聴いて、セッション録音との違いにまず驚かされるが、すぐに活気を帯び、温かみのあるモーツァルトを奏でている。所々ライヴならではのクーベリックの主張がみられるものの、基本的な表現のスタンスは変わらず、むしろ柔軟性が一層増したものになっている。第4楽章はセッション録音にはなかった繰り返しが加わり、演奏時間も長くなっているが、その分、より壮大さを増したフーガになっている。

■サー・コリン・デイヴィス指揮 ドレスデン・シュターツカペレ
 (1981年10月録音、ドレスデンにて収録、PHILIPS海外盤)


マイベスト盤の一つ。感興を持って歌い上げた名演。シルキーな肌触りのあるシュターツカペレならではのストリングスの音色はモーツァルトによく似合う。シュターツカペレならではのシルキーさは2009年に聴いた来日公演の際にも実感。録音当時のドレスデンは今振り返ればまだ東西ドイツ前。デジタル初期の録音ながら、デジタル臭が皆無なのがPHILIPSの特色なのかもしれない。

■オイゲン・ヨッフム指揮 バンベルク交響楽団
 (1982年録音、Kulturraum バンベルクにて収録、ORFEO海外盤)


1968-1973年までバンベルク響の芸術顧問だったヨッフムによる再録音となる音源。米国オケ編でエントリーしたボストン響盤では機敏さが感じられたが、ここでは全体的にテンポもゆっくりになり、牧歌的な印象を受けた。弦と管の均整の取れたバランスに、同じ南独エリアのバイエルン放送響とどこかサウンド的な共通点を感じる。

■ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団
 (1990年5月録音、ムジークハレ、ハンブルクにて収録、RCA国内盤)


マイベスト盤の一つ。ヴァント(1912-2002)が78歳時のライヴ。晩年のヴァントが至った境地であり、彼のモーツァルト演奏の全てが凝縮されたような演奏だ。巨匠といえども重心は身軽で実に機敏なテンポ感。特に第4楽章はそれを体現したような演奏で、エンディングに向けて突き進むフーガはまさに一つの小宇宙を形成しているかのよう。北ドイツ放送響の厚みのあるストリングスもそれに寄与しており、芳醇なサウンドが聴き手を包み込んでくれる。至福の気分になれるジュピターだ。折しも今年はショルティと同じく生誕100周年だった。

■カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1991年5月録音、イエス・キリスト教会、ベルリンにて収録、SONY国内盤)


全体的に重心が低めのジュピター。ジュリーニ(1914-2005)自身の年齢も影響しているのだろうか(録音当時77歳)、以前エントリーしたプロムスの「リンツ」交響曲での颯爽とした演奏とは対照的。楽器別には特に木管の巧さが際立っているのはソリスト集団のベルリン・フィルならでは。

【室内オケ:チェコ、オーストリア】
■サー・チャールズ・マッケラス指揮 プラハ室内管弦楽団(ジャケット画像:3段目右)
 (1986年録音、プラハにて収録、TELARC海外盤)


まずはチェコの室内オケを。以前エントリーしたプラハ室内管によるもので、彼らと全集を完成させたマッケラスの意欲作。至る所にユニークな仕掛けがなされているが、個人的なお気に入りは第3楽章。実にスピーディーなメヌエットで、聴く者を飽きさせない。全集を通じ通奏低音としてチェンバロや、収録会場に宮殿が用いられているのもユニークで、これによりバロック的な活気と雰囲気が生まれている。長い残響効果が人数の少ない室内オケの響きをカバーする事にも寄与している。

■シャンドル・ヴェーグ指揮 モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ(ジャケット画像:3段目左)
 (1994年10月録音、モーツァルテウム、ザルツブルクにて収録、DECCA国内盤)


ヴァイオリニスト出身のヴェーグ(1912 -1997))が芸術監督を務めるモーツァルテウム・カメラータ・アカデミカによるもの。ティンパニに古楽器風的なアプローチ感じられる。ストリングスの扱い方は巧いが、室内オケゆえか、音が痩せ気味なのは残念。