朝の通勤時、最寄駅のひと駅手前から会社まで歩く15分程の道のりの中で、ほぼ毎回聴いている曲の一つに、以前、「カンタベリー・コラール」でエントリーした日本でもお馴染みのベルギーの人気作曲家、ヤン・ヴァンデルロースト(b.1956)の「アルセナール」という作品がある。地元ベルギーの吹奏楽団の50周年記念委嘱作品として1995年に作曲されたコンサート・マーチで、祝祭と気品さを併せ持った曲想が、朝の眠気を取り払うのに効果的。おまけに行進曲なので、歩く時のテンポにもぴったり!まさに、「アルセナール」での行進が、朝の気分を高めてくれる(^^) 今や栄養ドリンク的な存在になった「アルセナール」を、吹奏楽版に金管バンド版も交えた4種のディスクで楽しんでみたい。(ジャケット画像:右上より時計回り)
○ヤン・ヴァンデルロースト指揮 大阪市音楽団
('02年6月13日録音、ザ・シンフォニーホールにてライヴ収録、FONTEC国内盤)
名曲「カンタベリー・コラール」も収録された名ライヴ盤のアンコール曲として収録。これぞ、通勤時に毎度聴いているマイベスト盤。ヴァンデルロースト自身が指揮をしたという意味合い以上に、大阪市音楽団の燃焼度の高さに、何度も聴き惚れてしまう演奏。全体をリードするスネア・ドラムが刻む明快なリズム、金管楽器の力強い音色、気品あふれる木管楽器の旋律に、吹奏楽ならではのコンサート・マーチの醍醐味を感じる。
今回取り上げた4つのディスクを聴き比べた中でも、祝典的な気分の高揚感が最も出た演奏となっており、感動的。
○ジェイムズ・ワトソン指揮 ブラック・ダイク・バンド
(de haske輸入盤)
アルバム「ザ・ブラス・ミュージック・オブ・ヤン・ヴァンデルロースト」に収録された一曲で、英国式金管バンドによる貴重な音源。何より、金管バンドの最高峰、ブラック・ダイク・バンドによる演奏というのがまず嬉しい。まるでエルガーやウォルトンのような英国風の行進曲を聴いているかのよう。グランド・マーチ風の前半・後半と、高貴な中間部で、うまくメリハリをつけて描きわけた演奏となっている。コーダでのソプラノ・コルネットが奏でる対旋律は、この曲に一層の気品さを添えている。
指揮は長年フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの中心的存在の一人であったトランペットのジェイムズ・ワトソン。演奏・指揮と共に、ブラスを知り尽くしたコンビと言えるだろう。
○渡辺秀之指揮 宝塚市吹奏楽団
('08年2月録音、ユーベルホールにて収録、CAFUA国内盤)
アルバム「アトランティス」に収録された一曲。宝塚市吹奏楽団は前回、「オーメンズ・オブ・ラヴ」でもエントリーした市民バンド。アルバムの最終曲としても収められているのは、アンコール的な位置付けとしているのだろう。改めてこの曲が、学生バンドを始め、多くの市民バンドにも愛奏されている事を窺わせる。
この曲の持つコンサート・マーチ的なノリがよく伝わり、市民バンドならではの熱の感じられる好演。収録マイクのセッティングの影響だろうか、スネア・ドラムやチューバの音を始めとするリズムやベース・セクションはクリアに聴きとれるが、トランペット・セクションがやや弱く聴こえるのが、ややバランス的に物足りなさにつながる面も。
○丸谷明夫指揮 なにわ《オーケストラル》ウィンズ
('07年5月5日録音、東京芸術劇場にてライヴ収録、BRAIN MUSIC国内盤)
ライヴ・アルバム「なにわ《オーケストラル》ウィンズ2007」(2枚組)の2枚目1曲目に収録。おそらく2部のステージのオープニングで取り上げたものと思われる。演奏は以前、エントリーしたなにわ《オーケストラル》ウィンズによるもの。この作品の持つ格調高さを全面に出しているのだろう、全体的にゆったりとしたテンポとなっている。さすが、オーケストラ・プレイヤーが集結した団体だけに、個々の技量の高さを伺わせる。アーティキュレーションも定まっており、対旋律も聴きとりやすいが、個人的にはもう少しコンサート・マーチ的なノリもほしかった。
指揮は吹奏楽界のカリスマ的存在である淀川工業高校吹奏楽部の丸谷明夫氏。日本の吹奏楽ファンの一つの模範となる演奏だろう。