真冬の季節にぴったりな弦楽作品がある。北欧の大作曲家、シベリウス(1865-1957)作曲の「アンダンテ・フェスティーヴォ」(1922年作)。交響詩「フィンランディア」や「カレリア」組曲等の知名度からすると、シベリウスの中では隠れた作品といえるかもしれない。
木管・金管楽器を伴わず、弦セクションによって奏でられる美しい旋律は、いわばシベリウス版「G線上のアリア」とでも呼びたくなるような名曲。讃美歌のような敬虔な祈りに満ちながらも、「フェスティーヴォ(祝祭的な」というタイトルも付いている通り、どこか情熱的な雰囲気を持ち併せている。また、北欧の幻想的な風景を想起させるテイストがシベリウスらしい。
偶然にも、3年前に、飯森泰次郎&東京シティ・フィルの定期演奏会でのアンコールで、この曲に接した事があり、個人的にもお気に入りだった。シンプルな旋律なので、弦楽器初心者にも打ってつけと思い、ヴァイオリンを習う父に最近勧めてみた所、楽譜を取り寄せ、現在習っているヤマハの音楽教室でのレッスン曲にしているという。
原曲は弦楽四重奏の曲なので、オリジナル版との比較も興味深いが、今回は北欧オケを含む3つの音源を聴き比べてみたい。(ジャケット画像左:ヤルヴィ盤、右:ヤンソンス盤)
■ネーメ・ヤルビィ指揮 デトロイト交響楽団
(1991年11月録音、デトロイト・オーケストラ・ホールにて収録、CHANDOS海外盤)
■マリス・ヤンソンス指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
(1992年5月録音、コンツェルトハウス、オスロにて収録、EMl海外盤)
■オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
(2003年録音、BIS海外盤)
ヤルビィ(b.1937)盤は、この曲の存在を最初に知った音源。アルバム「Encore!」に収録。後年、当時首席指揮者(1982-2004)だったエーテボリ響とグラモフォンとBISレーベルに、それぞれレコーディングした音源も存在しており、この隠れた名曲を積極的に紹介している第一人者といえるだろう。
演奏は、ヤルビィらしい早めのテンポ設定で、全体的な見通しが良く、聴きやすい。CHANDOSの残響豊かな録音も効を奏しているのかもしれないが、デトロイト響から北欧的なみずみずしい響きを引き出しており、自分にとってのマイベスト盤となっている。
一方、ヤンソンス(b.1943)盤は、ヤンソンスがノルウェイの名門、オスロ・フィルの首席指揮者(1979-2000)だった時代の録音。聴き所のツボを押さえたヤンソンスらしい演奏。スタイルとしてはヤルビィ盤とヴァンスカ盤の中間をいく演奏といえるかもしれない。他の2つの音源に比べると残響感にやや乏しいのが惜しい。
ヴァンスカ(b.1953)盤は北欧の代表的なレーベルであるBISの録音。ラハティ交響楽団はフィンランドのオケで、1988年にヴァンスカが音楽監督に就任以来、頭角を現している。ストリングスがじっくりと鳴っており、実に濃密な演奏。演奏時間も今回の3つの音源の中では最も長くなっている。個人的にはやや力み過ぎとの印象も受けるのだが、シベリウスの母国の指揮者・オケならでは作曲家への敬愛ぶりが感じられ、この曲の情熱的な一面をよく伝えてくれる。