2019年1月26日放送の「題名のない音楽会」で敬愛するジョン・ウィリアムズの特集が組まれた。映画音楽の世界で歴史に残る数々の名作を生み出してきたジョン・ウィリアムズ(b.1932)。今年で御年87歳を迎えるが、自分にとってジョン・ウィリアムズといえば、やはり「スター・ウォーズ」の作曲者としての存在が大きい。音源上でも「スター・ウォーズ」は今やウィーン・フィルやベルリン・フィルを含め、世界中のオーケストラによって愛奏されているが、個人的に最もリスペクトしてるのは、初演団体であり、オリジナルのサントラを担当したロンドン交響楽団による音源。1977年の「スター・ウォーズ」公開(エピソードⅣ/新たなる希望)以来、多くの人々に愛される曲を世に知らしめた彼らの功績は大きい。今でもサントラ上ではロンドン響による演奏を聴けるが、今回、こだクラではサントラ以外でレコーディングされたロンドン響による「スター・ウォーズ」の顔といえる「メイン・タイトル」の音源をエントリーしたい。1970年代から現在まで、少なくとも5種類の音源が存在する。本ブログで過去エントリーしたものも含まれるが、改めて歴代の音源ディスクを集結させてみたい。
【1970年代】
■モートン・グールド盤(TIME 5:51)
モートン・グールド指揮 ロンドン交響楽団
(1978年9月22日録音、ロンドンにて収録、ビクター国内盤、ジャケット画像上段左)
1977年の「スター・ウォーズ」(エピソードⅣ/新たなる希望)公開翌年の録音。アルバム「GREAT SYMPHONIC MOVIE THEMES(原題は「Digital Space」)に収録。本アルバムでは全12曲の収録中、「スター・ウォーズ」より「メイン・タイトル」と「レイア姫のテーマ」の2曲が収録されている。指揮を務めるモートン・グールド(1913-1996)といえば、「アメリカン・サリュート」で有名な作曲家。当時、ロンドン交響楽団とは複数のアルバムを制作していた中の一枚。
レコーディングが映画公開(サントラは1977年3月にレコーディング)の翌年と最も近いだけに、今回エントリーした5種類のディスクの中で、オリジナルのサントラに雰囲気が最も近く感じられる音源。おそらく、メンバーはサントラとほぼ同じだろう。それを示すのが、トランペットのモーリス・マーフィー(1935‐2010)の音。冒頭ファンファーレで始まるハイB♭のアタックがサントラ以上(!)に強く、トランペットはモーリス・マーフィーの音しか聴こえない位、ガンガンに迫ってきて、実にパワフル!当時はまだ初版の楽譜だったのだろう、終結部も現在の演奏と異なっている。1978年の録音ながらデジタル録音なのが嬉しい。今もって貴重な音源。
【1980年代】
■ロイ・バッド盤(TIME 5:33)
ロイ・バッド指揮 ロンドン交響楽団
(1985年頃録音、HERMES海外盤、ジャケット画像上段中)
アルバム「SPACE MOVIE THEMES」に収録。アルバム自体は以前エントリーしたが、「スター・ウォーズ」関連で6曲収録されているのが嬉しい。以前、「レイア姫のテーマ」でもエントリー。録音時はシリーズ第3作目の「ジェダイの復讐」(1983年)も公開されていたので、世界にスター・ウォーズの一大ムーブメントが起こっていた時期。それだけに、ロンドン響にとってもスター・ウォーズは自分達が関わった曲としての愛着と自負心が感じられる。
指揮者のロイ・バッド(1947-1993)は、地元イギリスの作曲家・ジャズ・ピアニスト。日本での知名度はないものの、映画音楽の分野で活躍した作曲家だけにテンポ運びのよい演奏を聴かせてくれる。ややオンマイク気味の録音だが、音がサントラのように立体的に鳴っているように聴こえてくる。
■スタンリー・ブラック盤(TIME 5:37)
スタンリー・ブラック指揮 ロンドン交響楽団
(1986年頃録音、IMP海外盤、ジャケット画像上段右)
アルバム「MOVIE MUSIC」に収録。こちらも以前エントリーした音源なので、詳細はそちらに譲りたいが、同時収録された「スーパーマン」「インディ・ジョーンズ」も含め、モーリス・マーフィーのパワフルな音を耳一杯に感じられる歴史的な名盤。どの曲も自信に満ち溢れた演奏となっており完成度も高い。コンサートでも主要な演奏レパートリーとなっていたに違いない。指揮を務めるスタンリー・ブラック(1913-2002)はロイ・バッドと同じ共通点(イギリスの作曲家・ピアニスト)を持つが、指揮者としての活動歴が長いだけに、聴かせ所のツボを心得ている。今回エントリーした5種類の音源の中でのマイベスト盤。
【1990年代】
■ジョン・ウィリアムズ盤(TIME 5:49)
ジョン・ウィリアムズ指揮 ロンドン交響楽団
(1996年7月録音、アビー・ロード・スタジオ他にて収録、ソニー国内盤、ジャケット画像下段右)
アルバム「THE HOLLYWOOD SOUND」に収録。時期的には1999年公開の新3部作「エピソード1/ファントム・メナス」で再度ロンドン響とジョン・ウィリアムズがサントラでタッグを組む3年前のレコーディング。本アルバムでは往年の名作映画の曲が全16曲収録されているが、スター・ウォーズ関連はこのメイン・タイトルのみ。詳細はこちらも以前エントリーしたのでそちらに譲りたいが、ポイントは何より作曲者本人の指揮によるものであること。また、本録音では上記3つのディスクに登場しているモーリス・マーフィーに加え、伝説のフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル、ロンドン・ブラスを経て1988年からロンドン交響楽団に入団したロッド・フランクス(1956-2014)も参加しており、師弟コンビの音が聴ける音源としても貴重。上記3つに比べれば、冒頭のトランペットのアタックはややおとなしめだが、オケ全体のサウンドと溶け合い、ある意味、余裕の感じられる。スター・ウォーズで到達した一つの理想の演奏の姿がここにある。なお、上記3つと異なり、この音源以降、終結部に反乱軍のテーマの旋律が一部取り入れられて曲が締めくくられている。現在の「メイン・タイトル」はこの版で演奏されている。
【2000年以降】
■ギャビン・グリーナウェイ盤(TIME 6:08)
ギャビン・グリーナウェイ盤指揮 ロンドン交響楽団
(2017年録音、リンドハースト・スタジオにて収録、DECCA海外盤、ジャケット画像下段左)
アルバム「A LIFE IN MUSIC」に収録。2017年のレコーディングなので、既に新3部作(エピソード1~3)の公開も終え、続3部作(エピソード7~9)が進行中の時期。しかし、新3部作まではロンドン響によるサントラだったのに対し、続3部作からはロンドン響ではなく、アメリカ国内のミュージシャンによって組まれた映画用のオケによる演奏に変更された。背景として、配給会社の変更(20世紀フォックスからウォルト・ディズニー社)や長期のレコーディング、ジョン・ウィリアムズ自身の高齢化の要素があると思われる。
こちらも以前エントリーしたので詳細はそちらに譲りたいが、トランペットセクションはモーリス・マーフィー、ロッド・フランクスがいなくなった後の世代によるもの。首席奏者はフィリップ・コブ(b.1988)となり、彼の冴え渡る実力はこのアルバムでも存分に発揮されているが、終結部の全奏でジョン・ウィリアムズ盤にはないBのハイトーンが付加されているのはパフォーマンス過多の印象を受け、個人的には少し残念。ともあれ、新時代のロンドン響のスター・ウォーズ像を示す音源であることは間違いない。
【こだクラで過去に取り上げた「スター・ウォーズ」関連のブログ】
■映画史に残る名曲!スター・ウォーズより「王座の間とエンド・タイトル」~ディスク7選
■ファン必聴!ロンドン響によるジョン・ウィリアムズ映画音楽集「A LIFE IN MUSIC」
■スター・ウォーズより「レイア姫のテーマ」 ~ディスク10選(キャリー・フィッシャーを偲んで)
■ディスク世界遺産~「スター・ウォーズ」「インディ・ジョーンズ」「スーパーマン」を奏でたトランペッター
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■「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」公開記念~コージアン指揮ユタ響による「スター・ウォーズ三部作」
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