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バッハ作品の中には、お気に入りの曲が沢山あるが、その一つに「ブランデンブルク協奏曲」がある。中でも「第3番 ト長調BWV.1048」 は昔からのお気に入りだった。重厚でどっしりとした響きを奏でる1楽章、即興が楽しめる2楽章、そして各楽器間のソリスティックな技巧が要求される3楽章等、聴き所も多い。この「第3番」にはムジカ・アンティクヮ・ケルンのような超絶技巧の名盤もあれば、名門金管アンサンブル、フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルによる金管楽器の域を超えた名トランスクリプション盤もあり、それぞれに個性的な名演が存在するのが嬉しい。
デジタル録音期になってもこれらの名盤がひしめきあう中、ここにきて新たに魅力的なディスクが登場した。

演奏はトレヴァー・ピノック指揮、ヨーロピアン・ブランデンブルク・アンサンブル('06年12月16日他録音、シェフィールド・シティ・ホール他にて収録、AVIE輸入盤)によるもの。ピノックといえば'73年にイングリッシュ・コンサートを創設した指揮者・チェンバロ奏者として有名だが、今回の最新録音は団体名「ブランデンブルク」のクレジットが入っている事からしても、その意気込みが伺える。

何でも各国の腕っこきを集めた室内オケとなっており、英国からは元手兵('03年にピノックは退団している)のイングリッシュ・コンサートに、オーケストラ・オブ・エイジ・オブ・エンライトゥンメント、オランダからはアムステルダム・バロック・オーケストラ、イタリアからはイル・ジャルディーノ・アルモニコの主要メンバーが集まったという。ピノックの生誕60歳の日に収録されていることからも、彼自身にとって還暦の記念となるアルバムだ。

ピノックにとっては既に'82年にイングリッシュ・コンサートと最初の「ブランデンブルク協奏曲」を録音しているが、四半世紀が過ぎ、彼としても改めて自分の理想とする演奏の再録のタイミングを探っていたのだろう。4つの室内オケの混成メンバーとは思えない、実に質の高い演奏を聴かせてくれる。演奏は自発性にあふれ、メンバー個々に技巧派揃いである事を伺わせる。
今回のような記念企画ともいうべきアルバムのリリースは、英国における古楽器界の盛んな現状と、それを支えるアカデミックな文化の土壌を感じさせる。

録音はややオンマイク気味で、やや固めに響いて聴こえる為、個人的にはもう少しホールトーンをたっぷりめに取り入れてほしかった。しかしながら古楽器特有の響きは実にクリアに録れており、理想的な名演にふさわしい仕上がりとなっている。