女子ジャズ本を機に、以前からタイミングをうかがっていたパット・メセニー(b.1954)についてエントリーしてみたい。彼の作品は、ギタリストや作曲家としてのマルチな才能と、作品の独創性で、聴衆だけでなく、多くのアーティストにも影響を与えてきた。映像が眼前に広がるような作品がある一方で、心の琴線に触れる作品もあり、そのいずれも聴き手の心を捉えて離さない。もはやジャズというカテゴリーではくくれない世界観がある。今回は彼のグループのメンバーであるライル・メイズを含めた3枚のお気に入りアルバムをエントリーしてメセニーワールドに浸ってみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り 中央は雑誌「ADLIB」の表紙を飾ったメセニー)
【パット・メセニー・グループ】
■アルバム『Offramp』
■アルバム『The Road To You』
アルバム『Offramp』(1982年発表)に収録の「James」は、パット・メセニーの音楽に触れるきっかけとなった曲。T‐スクエアのようなフュージョンにも似た作風(例えるなら、メセニーのギターのパッセージが、伊東たけしのウィンドシンセのよう)が、より身近に感じられたのかもしれない。メセニーの代名詞ともいえる名曲でグループ初期の代表作。最終曲に収録されている「The Bat Pt.2」の、幻想的な作風にも惹かれるものがある。
一方、『The Road to You』(1993年発表)は、1991-1992年のヨーロッパツアーからのライヴ音源が収録されたアルバム。聴衆と直接呼応し合っているのが実感できる熱気溢れるライヴというだけでなく、当時の代表曲が数多く含まれている意味合いからも、メセニーファンには必聴といえそうだ。
「Better Days Ahead」は、ドライヴ感のあるフュージョン的な作品で、「James」と共にお気に入り。また、「Beat 70」や「First Circle」「Third Wind」は広大なスケール感のある作品。特に、「Beat 70」は元気や活力が欲しい時にぴったりで、栄養ドリンクを飲む時のようなパンチがある。
一方、「The Road To Wind」や「Naked Moon」、「Letter From Home」は上記とは対照的で内向的な作品。いずれもメセニーのギターソロがメインとなっており、どこか郷愁を誘われる。
個人的にお気に入りなのは「Last Train Home」。最終列車に乗って故郷に急ぐ旅人の心情を描いたような作品。スネアとベースによって刻まれるリズムは、まさに全速で駆け抜ける汽車の鼓動そのもの。そのリズムに乗って奏でられるのは、メセニーのエレクトリックシタール。メセニーの音は旅人の心の声だろうか、それは明日に向けた希望の声のようにも聴こえて、どこか勇気付けられる。
【ライル・メイズ】
■アルバム『Lyle Mays』
3枚目にエントリーする『Lyle Mays』は、パット・メセニー・グループのキーボード担当のライル・メイズ(b.1953)が1986年に発表したソロアルバム。メセニーとは長年の盟友だけあって、彼の世界観はメセニーと通ずるものがある。本アルバムでは「Close to Home」が最大の聴き所で、曲の奥深さはメイズならでは。日本を代表するキーボーディストの一人で、以前本ブログでエントリーした中村幸代さんも、彼の音楽に傾倒していたようだ。メセニーと同じく郷愁に誘われる作風で、ヒーリングとしても聴ける。