数年前、購入したCDの中に5年近く探し求めていた曲があった。ピアニスト、フリードリヒ・グルダ自作の「アリア」。
その曲はフランスのモンペリエで行われたモンペリエ・サマー・フェスティヴァルでのライブ録音に収められていた。('93年7月31日録音、アコード輸入盤、CD2枚組)
社会人になりたての頃、ピアノ好きな先輩が'93年に来日した際のグルダのライブ映像を見せてくれた事があった。自分にとってグルダという名前と彼の演奏聴いたのはその時が初めて。アンコールで演奏された「アリア」を聴いた時、旋律の美しさにハッとさせられる。帽子をかぶり、聴衆の顔色を伺いながら弾く普通とは変わった演奏姿と、高貴なたたずまいを感じさせるそのメロディーとのギャップに、強烈な印象を受けたものだった。その先輩はよっぽどこの曲が気に入ったのだろう、楽譜まで入手するこだわりようだった。
このライブの前半1枚目に演奏されている曲目はドビュッシーにモーツァルト幻想曲K.475や、ピアノ・ソナタ 第14番 K.457、ベートーベンのピアノ・ソナタ 第31番というクラシカルなプログラム。グルダにとっては十八番の作曲家の曲だけにグイグイと押し進めていくグルダならではのテンポ感が心地よい。
そして2枚目は言ってみれば、「グルダ・オン・ステージ」というべき位置付けとなっている。曲の前後にはグルダ本人が聴衆に語りかけるMCが入るあたり、聴衆と呼応した雰囲気がまるでジャズライブのよう。あいにくフランス語なので何を言っているかはさっぱり分からないが…。
まさにグルダの面目躍如。ショパンやドビュッシーといった曲も演奏されているが、グルダの編曲ものや、自作が入り組んだプログラムとなっている。自作の内の一曲、「前奏曲とフーガ」のジャズ・テクニックに、早速度肝を抜かれてしまう。
その「アリア」はこのライブの最後を飾るアンコール曲として演奏されていた。
まるで即興のように、その場で音楽が生み出されたかのような演奏。グルダの鼻歌も聞こえ、本人もノッて弾いている姿が伺える。この日のプログラムを締めくくる曲としてだけでなく、グルダ自身の人生を振り返るかのようにも聴こえた。自分だけでなく、当夜の聴衆に多くの感動を与えたに違いない。このアルバムを聴いて、しばらく頭の中で「アリア」の旋律がリフレインされて鳴っていた。
音楽にはクラシックもジャズも垣根はない事をつくづく感じされてくれる、そんなライブ。おそらく野外での収録で、放送局による録音ながら録音状態はよい。グルダは7年後の2000年に69歳の生涯で亡くなっている。
いつの日か楽譜を購入してこの「アリア」を弾いてみたい。
《参照マイブログ》
異色の共演~グルダ、コリア、アーノンクール&コンセルトへボウ管