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過去ブログにも登場しているなにわ《オーケストラル》ウィンズの最新アルバム「なにわ《オーケストラル》ウィンズ2010」を聴く。
購入動機は、学生時代に演奏経験のあるオリヴァドーティの「薔薇(バラ)の謝肉祭」と、クリフトン・ウィリアムズの「献呈序曲」という、懐かしい曲が2曲収録されていた点。オケのメンバーによる、なにわ《オーケストラル》ウィンズによって、これらの古典的名曲がどう表現されるかが楽しみでもあった。今回、トランペット・セクションには、先日のエリアフ・インバルによるマーラーの交響曲第3番の公演で見事なポストホルン・ソロを聴かせてくれた東京都交響楽団の岡崎耕二氏も参加している。何より、ライヴ録音ならではの雰囲気が味わえるのが嬉しい。収録曲は以下の通り。

1. 鷲の舞うところ/スティーヴン・ライニキー
2. 献呈序曲/クリフトン・ウィリアムズ
3. 薔薇(バラ)の謝肉祭/ジョセフ・オリヴァドーティ  
4‐5. 翡翠(かわせみ)/ジョン・マッキー
6. ボスコ・ロスコ/トミー・ペダーソン(トロンボーン7重奏)
  Bosco Rosco/Tommy Pederson 2:11  
7. 音楽祭のプレリュード/アルフレッド・リード
8. 朝鮮民謡の主題による変奏曲/ジョン・バーンズ・チャンス
9. ハンティングタワー/オットリーノ・レスピーギ
10. ノーブル・エレメント/ティモシー・マー
 (アンコール)
11. 主よ人の望みの喜びよ/ヨハン・セバスティアン・バッハ(編曲:アルフレッド・リード)
12. 笑点のテーマ/中村八大(編曲:三浦秀秋)
13. 勇気100% Brass Rock/馬飼野康二(編曲:野崎雅久)  
14. ウルトラマン・オン・ブラス
  ウルトラセブンのうた~帰ってきたウルトラマン

客演指揮:
丸谷明夫(大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)1-3,7,9,11-12
日野謙太郎(愛知・光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部)4-5,8,10,13

演奏:なにわ《オーケストラル》ウィンズ
(2010年5月4・5日録音、すみだトリフォ二ーホール、ザ・シンフォニーホールにて収録、BRAIN MUSIC国内盤)


「薔薇(バラ)の謝肉祭」は小学6年時の地区音楽会(会場:江東公会堂)で演奏した曲。当時、小学5年から始めたチューバから、トランペット・パートに転向していたが、部員のチューバ吹きが自分一人しかいなくなっていた事から、本番ではチューバで出演。
…そういえば、こんなエピソードがあった。当時、「バラの謝肉祭」のお手本音源を探しに、父親と荻窪の新星堂本店に行ったのだが、店員に「バラの謝肉祭」と尋ねても首を傾げるばかり。「“バラ”の騎士(=R.シュトラウス)かローマの“謝肉祭”(=ベルリオーズ)だったらあるんですが…と回答されたのを今でも記憶している。クラシック作品ならまだしも、この吹奏楽曲に熟知した店員はさすがにいなかったに違いない。
小学生でも演奏可能なスケールバンド向けの曲だけに、そうそうたるオケのメンバーが演奏する「バラの謝肉祭」は実にアーティスティック。元々ハーモニーが美しい、クラシカルな趣を持つ作品だが、今、演奏されても全然色褪せておらず、むしろ新鮮に聴ける。改めて名曲である事を感じさせられた。

一方の「献呈序曲」は、高校1年時の定期演奏会(会場:杉並公会堂)で取り上げた曲。スピードや勇ましさといったこの曲が持つアグレッシブな側面よりも、ハーモニーの調和的な側面にスポットが当てられている。・・・こちらにも、こんなエピソードがあった。同期の男性陣と選曲ミーティングの中で、この曲を定期演奏会のプログラムとして組み入れるかどうか、迷っていた矢先、自分が、「けってい!けんてい(=献呈)」と発した所、この曲に決まったというもの。自分のダジャレが、選曲に影響を及ぼしたという、何とも思い出深い曲(?!)になった。
なお、この2曲の指揮は、なにわ《オーケストラル》ウィンズでもお馴染みとなった、高校吹奏楽の名門、淀川工業高校(現在は淀川工科高校と改称されている)の丸谷明夫氏というのも嬉しいところ。

今回のアルバムには、リードやチャンスといった歴代の有名作曲家達の曲も収録されているが、特に感銘を受けたのは「翡翠(かわせみ)」という曲。当初、タイトルからして邦人作品とばかり思っていたのだが、アメリカ人の若手作曲家ジョン・マッキー(b.1973)によるもの。今回の指揮を務めた日野謙太郎氏を含めた、日本の吹奏楽関係者からの委嘱作品という。それだけに、邦楽的なセンスが感じられる作品。かつて、日本の吹奏楽曲に「風紋(ふうもん)」(これも学生時代に演奏した懐かしの曲)という名曲があったが、現代版「風紋」といえるような曲で、静-動という展開形も含め、どことなく共通点を感じる。特に後半部は、体内からエネルギーが湧いてくるような、生命力に満ち溢れている。このアルバムを通じての貴重な収穫だった。ちなみに「翡翠(かわせみ)」は昆虫の「セミ」ではなく、水辺に生息する鳥という事も、この曲を通じて知った。

アンコールのユニークさも、なにわ《オーケストラル》ウィンズならでは。「笑点のテーマ」はもちろん、特に「ウルトラマン・オン・ブラス」の中の「ウルトラセブンのうた」は、高校時代に同期の男性陣だけで演奏した演目だけに、懐かさがまた込み上げてくる。また、ここでは読売日本交響楽団の正指揮者である下野竜也氏がゲストで指揮をしているのも面白い。プロの音楽家となった彼らが、燃える青春時代にタイムワープしているかのような、演奏家の原点を感じさせてくれた。