震災以降、モーツァルトの「レクイエム」を毎日のように聴いていたが、ヘビー・ローテーションとなっていた曲の中に、カッチーニ(1545年頃‐1618)の「アヴェ・マリア」もあった。この曲の作曲者の真偽については諸説あるものの、慈しみ深く、かつドラマチックな起伏を持った旋律は、一度聴いたら忘れられない。今回はこの「アヴェ・マリア」をそれぞれ演奏形態の異なる5つのディスクと共に味わってみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
【チェロ&ピアノ版】
藤森亮一(チェロ)&カール=アンドレアス・コリー(ピアノ)
(2000年7月録音、伊勢原市民会館にて収録、マイスターミュージック国内盤)
アルバム「Largo(ラルゴ)」に収録。チェリストはN響の首席奏者の藤森亮一氏(b.1963)、ピアノはレーベルの看板アーティストでもあるコリー(b.1965)。チェロは一般的に人間の声の音域に近いと言われるだけに、聴いていて安らぎを感じる演奏。マイスターミュージックは、ワンポイント収録による音質重視のレーベルだけに、臨場感ある録音も素晴らしい。
【ヴァイオリン&パイプオルガン版】
ヴァイオリン:やなぎだけいこ
パイプオルガン:岩崎真実子
(2007年4‐6月録音、立教女学院聖マーガレット礼拝堂にて収録、非売品)
個人的にお気に入りとなっているのが、このヴァイオリン&パイプオルガン版。この音源は、オーディオ雑誌「オーディオ・ベーシック」の付録CDというレアもの。「ヴァイオリンとオルガンのための隠れた名曲」というタイトルで選曲にもこだわっている。教会という音場環境で、ダイナミックレンジの広いパイプオルガンと、ヴァイオリンの響きが味わえるオーディオライクな仕上がりが嬉しい。ヴァイオリンによって奏でられる旋律が、まるで聖歌隊の歌声のようにも聴こえ、何とも慈しみ深い。
【ブラスバンド版】
ニコラス・J・チャイルズ指揮 ブラック・ダイク・バンド
(2005年録音、6‐7月録音、Morley Town Hallにて収録、OBRASSO海外盤)
アルバム「SPECTACULAR CLASSICS」に収録。英国の名門、ブラック・ダイク・バンドの首席コルネット奏者、ロジャー・ウェブスター(b.1960)のコルネット・ソロによって奏でられる。コルネットの柔らかい響きがこの曲に見事にマッチしており、ブラスバンドでも叙情的な表現が出来る事を見事に示している。
【ソプラノ版】
ソプラノ:レスリー・ギャレット
アイヴァー・ボルトン指揮 ブリテン・シンフォニエッタ
(1997年7‐8月録音、Whitfield Street Studios、ロンドンにて収録、ソニー海外盤)
アルバム「A Soprano Inspired」に収録。今回エントリーした中でのマイベスト盤で、最も心に響いたのがこのソプラノ版だった。歌詞付きというのも、理由の一つだが、何より、レスリー・ギャレット(b.1955)本人の歌声に心打たれてしまう。芯のある透き通ったヴォイスに、ドラマティックな歌唱がこの曲に相応しく、実に印象的。オーボエのイントロで始まるオケのアレンジも秀逸。レスリー・ギャレットは、英国ナショナル歌劇場に所属し、クラシックからポピュラーまで歌いこなす英国のソプラノ歌手だが、同じく英国出身のソプラノ歌手、サラ・ブライトマン(b.1960)の地名度に隠れがちなのが惜しい。もっと日本でも著名になってよい歌手だと思う。
【ハンドベル版】
ハンドベルアンサンブル東京(TOKIO)
(2008年7‐8月録音、四季文化館「みのーれ」、茨城にて収録、LIVE NOTES国内盤)
アルバム「ハンドベル ヴィルトゥオーゾ」に収録。何と、ハンドベル版なるものも存在!ハンドベルならではのクリスタルな響きで改めてカッチーニを聴くと、どうしてもクリスマスを思い浮かべてしまうのはやはり楽器の特性か。厳寒の冬を感じる「アヴェ・マリア」だ。5人のメンバーによるアンサンブルとは思えない一体の演奏。