英国オケによるブラームスの交響曲には名演・名盤が多い。自分なりのこだわりの視点で全4曲のディスクをそれぞれ取り上げてみたい。
今宵はまず第3番から。注目の女流指揮者、マリン・オールソップ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団によるブラームスの交響曲第3番を('05年3月録音、ブラックヒース・コンサート・ホール、ロンドンにて収録、ナクソス輸入盤)。女流指揮者を取り上げるのは今回初めてとなる。
オールソップの演奏に注目するきっかけとなったのはレコード芸術の付録CD。いつもの様に、演奏者名を伏せて聴いていると、4楽章の一部が聴こえてきた。流麗ながら内なるパッションがそのまま表れ出たような演奏で一聴して惹かれてしまった。それが女流指揮者マリン・オールソップ指揮によるものだった。
彼女は、1956年ニューヨーク生まれ。ジュリアード音楽院を卒業後、1989年にクーセヴィツキー賞を受賞し、レナード・バーンスタイン、小澤征爾に教えを受けている。1993年より12年間、コロラド交響楽団の指揮者に就任。2002年、ボーンマス交響楽団の首席指揮者となり、2007年からは、ユーリ・テミルカーノフ後のボルティモア交響楽団の音楽監督に就任。アメリカでメジャー・オーケストラを監督する初の女性指揮者という輝かしいキャリアの持ち主だ。
9歳の時にバーンスタインの指揮姿に接して指揮者になる事を心に誓ったというエピソードがあるが、バーンスタインの教えを受けた時の彼女の気持は如何ほどだっただろう。
さて、本題のブラームス。交響曲第3番が、こんなに温かくもスリリングな音楽だったのか思わせてくれる演奏。改めてブラームスの交響曲第3番が好きになってしまった。
セッション録音ながら、オールソップはロンドン・フィルから内なる熱気を奏者達から自然と引き出す事に成功している。それはまるでライブならではの熱っぽさが漂う。
曲への燃焼度だけではない。ロンドン・フィルから美音を引き出す事にも成功している。それはかつてのクラウス・テンシュテット時代のドイツ的な強固な響きともまた違う。敢えていうなればロスアンジェルス・フィルがカルロ・マリア・ジュリーニの退任後に就任したアンドレ・プレヴィンが引き出したビューティフルなサウンドとの関連性を想起させる所がある。
冒頭から熱気に包まれた4楽章も好きだが、チェロをゆったりと、繊細に歌わせる3楽章にも惹かれる。女性ならではの繊細な美感による所もあるのだろう。
オールソップが、録音当時48歳で、ブラームスがこの曲を作曲した50歳時と近い年齢という心境の変化もあったのかもしれない。
少なくとも今回オールソップの見事なブラームスによって、自分の中でナクソスの価値が上がるきっかけのディスクにもなった。特製紙ケース入りの仕様もさる事ながら、いよいよナクソスもクラシックの王道レパートリーに本格進出してきたなという感を持つ。
録音も素晴らしい。フォルテッシモで鳴りながらも決してうるさく聴こえる事がなく、ブラームスの美音を見事に引き出している。最近はロンドン響と同様、ロンドン・フィルの自主レーベルも立ち上がり、ライブ録音とセッション録音の双方で直近の演奏を楽しめるのは嬉しい限りだ。
カップリングに自分の大好きな「ハイドンの主題による変奏曲」が収録されているのも嬉しく、これがまた素晴らしいが、どこかでその演奏をコメントする機会を持ちたい。