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秋晴れの日には、ドボルザークの序曲「謝肉祭」を聴きたくなる。豊かな収穫の恵みを想起させてくれるこの曲は秋にぴったり。「謝肉祭=カーニバル」という言葉通り、日本では秋に多く開催される学校行事の文化祭があることもその一因かもしれない。昨年もエントリーしたお気に入りの管弦楽曲に、ドボルザークの母国のオケ、チェコ・フィルの名盤と出会う事ができた。「アルブレヒト/チェコ・フィル・コンサート・ライヴ」がそれ。アルバムに収録されている作品は以下の通り。

○ドボルザーク:序曲3部作「自然と人生と愛」

 1. 序曲「自然の中で」
 2. 序曲「謝肉祭」
 3. 序曲「オセロ」

○ブラームス:交響曲第1番

ゲルト・アルブレヒト指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
 (1992年12月録音、芸術家の家にて収録、スプラフォン国内盤)


ライヴならでは燃焼度の高さも加わった、これぞ「謝肉祭」のマイベスト盤!冒頭から駆け巡る熱狂的なリズムに、これぞチェコ・フィル!とうなってしまう。まさにこの曲のツボを完全に手中に収めた演奏だ。チェコ・フィル固有のサウンド・カラーを感じるにも、ぴったりな曲となっている。指揮はドイツ出身のアルブレヒト(b.1935)。彼はチェコ・フィルにとってチェコ以外の国から迎えられた初の外国人指揮者となったが、ここではドイツ色は一切なく、ドボルザークの母国チェコと、オケのカラーが全面に出た演奏となっている。

チェコ・フィルのディスクを聴いて毎回感じるのは、フォルテッシモになってもサウンドが混濁しない点。各セクションが程良くブレンドしているのは、アンサンブルの透明度が高いことの証なのだろう。これは本録音のスプラフォン以外のレーベルでの録音(例えばキャニオン・クラシックス)を通じても共通した印象だ。

この「謝肉祭」では、ゆったりとした中間部から冒頭の熱狂的なアレグロに戻る後半部分で、アルブレヒトが指揮台を踏み鳴らすのが録音から聞こえ、アルブレヒト自身の白熱ぶりも窺わせる。それは後半のブラームスでも同じで、アルブレヒトにとってはお国ものだけに、こちらも実にオケと共に熱演を繰り広げている。

アルブレヒトは1991年秋に、団員の選挙によって、首席指揮者就任が内定し、翌1993年10月に正式就任しており、双方の信頼関係が構築されつつある時期の貴重なドキュメントといえるだろう。

録音も大変良い。それは収録会場である「芸術家の家」ホールの音響特性にもよるのだろう。前回、ライナー・ホーネックがコバケン&チェコ・フィルと共演したメンデルスゾーンの名盤でも感じた事だが、素晴らしい残響効果を持つホールのように思う。
ちなみに、ジャケット写真は「芸術家の家」の全景。ホーネックのジャケットもこの「芸術家の家」の正面玄関で撮られた写真のようだ。なお、「芸術家の家」は別名、「ドボルザーク・ホール」とも記載されることが多いが、現地での呼称は「ルドルフィヌム」。日本では「芸術家の家」=「ドボルザーク・ホール」=「ルドルフィヌム」とそれぞれ記載されるので紛らわしい(^^;

また、興味深いのは、序曲3部作「自然と人生と愛」として演奏されたライヴ録音であること。実際の演奏会でこのように連続で演奏されることは稀なので、貴重な録音となっている。
「自然と人生と愛」といいうタイトルは、序曲「自然の中で」=“自然”、序曲「謝肉祭」=“人生”、序曲「オセロ」=“愛”に対応している事から、こう名付けられたというが、実に素晴らしいネーミングだと思う。これらは有名な交響曲第9番「新世界」(1893年作曲)が世に出る前の1891~1892年にかけて作曲されており、アメリカへ旅立つ前の油の乗り切った時期の作品といえる。1892年4月28日、プラハで作曲者の指揮によって初演されたが、1992年に行われたこのアルブレヒト&チェコ・フィルとのコンサートは、首席指揮者内定という意味での就任祝いと共に、この3部作のちょうど100周年記念を祝ったものともいえそうだ。