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日本を代表するオケの金管奏者11人による「トウキョウ・ブラス・シンフォニー」('05年秋結成)の最新アルバムを聴く。
今も伝説となっている英国の金管アンサンブル、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのレパートリーを録音した意欲的なアルバム。
'86年にこのブラス・アンサンブルが解散して20年が過ぎた今も、この金管アンサンブルの存在感の大きさを窺わせる。演奏メンバーの誰もがフィリップ・ジョーンズ(1928-2000)には大きな影響を受けたに違いない。特にメンバーの一人、井川明彦氏(N響)はフィリップ・ジョーンズの下で学んだN響の元首席トランペット奏者、祖堅方正氏に師事を受けた一人。祖堅氏を通じて受け継がれたフィリップ・ジョーンズの伝統が、この団体にも脈々と流れているに違いない。フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのトリビュート的な位置付けのアルバムとしても楽しめる。

収録曲及びメンバーは以下の通り。

プレトリウス(リーヴ編): テレプシコーレ組曲
J.S.バッハ(パーサー編): シャコンヌ ニ短調
ケッツァー: ブラス・シンフォニー
ラングフォード: ロンドンの小景

演奏:トウキョウ・ブラス・シンフォニー
('08年8月録音、逗子文化プラザホールにて収録、CRYSTON国内盤)

メンバー(所属オケ)
【トランペット】
井川明彦(N響)、栃本浩規(N響)、服部孝也(新日フィル首席)、中山隆崇(都響)、杉木淳一郎(新日フィル)
【トロンボーン】
吉川武典(N響)、桑田晃(読響首席)、岸良開城(日本フィル副首席)、門脇賀智志(新日本フィル)
【ホルン】
今井仁志(N響)
【チューバ】
池田幸広(N響)


その音色の統一感や重厚なハーモニーは、まさに団体名が示す“シンフォニック”というにふさわしいサウンド。フィリップ・ジョーンズがもし今も健在で、彼らの演奏を聴いていたら、日本の金管アンサンブル界の伸長をきっと感じたに違いない。
ここでは本家の10名編成ではなく、トランペットが1名強化された11名での編成。トロンボーン・カルテットの「ジパング」という団体名でも活躍する4名のトロンボーン・セクションは、チューバと共に豪快な中低音を聴かせてくれる。元気がよすぎて(?)多少ぶりぶり感が目立ちすぎる感も(^^;
金管楽器ならではの輝かしいサウンドを見事に捉えたCRYSTONの卓越した優秀録音も特筆しておきたい。

選曲も素晴らしい。活動初期の時代からフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルが得意としていたバロック期のレパートリー(ここでは「テレプシコーレ組曲」を演奏」)や、オリンピック・ファンファーレのようなブラス・ハーモニーの爽快感と色彩感を味わえるケッツァーの「ブラス・シンフォニー」、活動後期の委嘱作品であるラングフォードの「ロンドンの小景」など、どれも名曲揃い。重厚感を出せる団体だけに、ケッツァーでは、特にその強みを発揮できていたように思う。その分、「ロンドンの小景」では、もう少し軽妙さや愉悦感といったユーモア的な要素もほしい所ではあった。

トランペットの井川明彦氏は、自分にとって思い出深い奏者でもある。
今から20年近く前、初めてのブラス・アンサンブル体験が、上記の祖堅方正氏をリーダーとした「祖堅方正ブラス・アンサンブル」の演奏会だった。中学2年位の頃だっただろうか、母親と共に五反田の簡易ゆうぽうとホールに出かけたのを今も憶えている。当時、井川氏は神奈川フィルの奏者として在籍。その時のメインプログラムで演奏された、「ニューヨークのロンドンっ子」(ジム・パーカー)は、やはりフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルへの委嘱作品で、自分がブラス・アンサンブルにはまるきっかけとなった曲。
その後、井川氏は東フィル・都響を経て、N響へ。一方で、「トランペット5」や「東京トランペットコアー」など、日本の金管アンサンブル界を引っ張るプレイヤーの一人として活躍されていた。自分自身、吹奏楽部で活動していた高校時代ではトランペットパートの仲間と共に彼らの実演に接し、大きな感動と刺激を受ける事ができたのは、今もってラッキーだった。
今回のアルバムでもやはり「トランペット5」「東京トランペットコアー」のメンバーとして活躍されていた栃本浩規氏(N響)とのコンビで聴けるのも嬉しい。

フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの功績にスポットをあてたトウキョウ・ブラス・シンフォニーの演奏は、金管アンサンブル界の新たなスタンダードになるように思う。