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2018年は名指揮者であり、作曲家・ピアニストでもあったレナード・バーンスタイン(1918-1990)の生誕100周年だという。こだクラでも以前よりバーンスタイン作品や指揮をとった数々の名盤を取り上げてきたが、この機会にバーンスタインの代表作の一つ、「プレリュード、フーガとリフス」をエントリーしたい。この曲は1949年、バーンスタイン31歳に作曲されているが、本格的に知られるようになったのは1955年のテレビ番組で、ジャズ界の大御所でクラリネット奏者のベニー・グッドマン(1909-1986)との共演によって以降のようだ。
この曲は大きく分けて次の3つの構成からなる。トランペットとトロンボーンによる「プレリュード(前奏曲)」、サックスによる「フーガ」、クラリネットが加わり、全員参加する「リフス」。いずれもジャズの影響を受けており、バーンスタインの個性が輝く名作だと思う。ディスク7選の感想を綴ってみたい。

【バーンスタイン指揮によるディスク2選】
■レナード・バーンスタイン指揮 コロンビア・ジャズ・コンボ(ジャケット画像:上段左)
 ベニー・グッドマン(クラリネット)
 (1963年5月録音、コロンビア30thストリートスタジオにて収録、ソニー海外盤)


まずは、バーンスタイン指揮によるものを。この音源は1955年のベニー・グッドマンとの共演から8年後にレコーディングされたセッション録音で、ある意味、この曲の元祖ともいえる音源。マイクのセッティングだろうか、ベースの音が明確で、ジャズよりの録音となっている。トランペットセクションにはシェイクのかかり具合が弱く、やや物足りなさを感じるが、全体としては迫力充分で、当時としてはセンセーショナルな演奏だったに違いない。この音源では、何より「リフス」(演奏時間4:13)からのベニー・グッドマンのソロが冴えており、JAZZYさを前面に感じる演奏。当時バーンスタインは45歳。最後の熱狂ぶりもバーンスタインならでは。

■レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルメンバー(ジャケット画像:上段右)
 ペーター・シュミードル(クラリネット)
 (1988年10月録音、ムジーク・フェラインザール、ウィーンにて収録、ドイツ・グラモフォン海外盤)


1970年代後半から80年代にかけて数多くの共演を重ねたウィーン・フィルメンバーとの音源。録音は1988年で、当時バーンスタインは70歳、死去の二年前の貴重な録音となった。。サックス以外は全てウィーン・フィルメンバーというのがミソで、クラリネットのペーター・シュミードル(b.1942)は今でも現役の首席奏者だ。ウィーン・フィルの本拠地であるムジークフェラインザールで聴くジャズ、というのがなんとも贅沢!1985-1996年まで首席奏者を務めていたトランペットの名手ハンス・ガンジュ(b.1953)も参加しているが、「リフス」(演奏時間4:31)でのウィーン・フィルのフィーバーぶりはまさに聴き所で、ここまでJAZZYな世界を実現できたのは驚異的。今となってはもしも、の話になるが、ウィーン・フィルによる「ウェスト・サイド・ストーリー~シンフォニック・ダンス」も是非聴いてみたかった!
2種のバーンスタイン盤の中ではウィーン・フィル盤を推したい。

【ロンドン響メンバーによるディスク2選】
■ローレンス・レイトン・スミス指揮 ロンドン交響楽団メンバー(ジャケット画像:中段左)
 リチャード・ストルツマン(クラリネット)
 (1987年6月録音、ウオルサムストウ・タウン・ホール、ロンドンにて収録、RCA海外盤)


アメリカ出身の人気クラリネット奏者、リチャード・ストルツマン(b.1942)によるもの。個人的な関心はロンドン響のメンバーが共演している点。トランペット・トロンボーンのメンバーは以下の通り。
(トランペット)
マルコム・スミス、マルコム・ホール、アンソニー・フィッシャー、イアン・マッケントッシュ、マーティン・ハレル
(トロンボーン)
エリック・クリーズ、イアン・バウスフィールド、フランク・マシソン、アーサー・ウィルソン

トロンボーンにはフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの活動後期に活躍したエリック・クリーズや、後にウィーン・フィルに移籍するイアン・バウスフィールド(b.1952)を含めた4人が参加しているのがポイント。名奏者モーリス・マーフィーがこの録音に参加していないのは残念だが、彼がいなくても、ロンドン響のブラスのレベルは充分に高かったことをよく示した録音。(「リフス」演奏時間/4:10)

■エリック・クリーズ指揮 ロンドン・シンフォニー・ブラス(ジャケット画像:中段中)
 アンドリュー・マリナー(クラリネット)
 (1991年録音、バービカンホール、ロンドンにて収録、Collins海外盤)


今回の比較試聴に際して良さが際立ったマイベスト盤。同じロンドン響のメンバーながら、ここでは「ロンドン・シンフォニー・ブラス」としてリリースしたアルバムに収録されている。参加メンバーは上記のRCA盤とは一部異なっており、トランペット・トロンボーンのメンバーは以下の通り。

(トランペット)
デレク・ワトキンズ(リード)、ロド・フランクス、マルコム・ホール、ナイジェル・ゴム、ジェイムズ・ワトソン
(トロンボーン)
イアン・バウスフィールド、サイモン・ウィリス、リンドセイ・シリング、フランク・マシソン(バス)

こちらもモーリス・マーフィーは参加していないが、フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルの活動後期を支えたロド・フランクス、ナイジェル・ゴム、ジェイムズ・ワトソンの3人が参加しているのがポイント。もう一つのポイントは映画「007」のサントラにも参加しているデレク・ワトキンズ(1945-2013)がゲスト・プレーヤーとしてリード・トランペットで参加している点。クラリネットはロンドン響の首席クラリネット奏者で、名指揮者ネヴィル・マリナー(1924-2016)の息子であるアンドリュー・マリナー(b.1954)が担当している。
冒頭から躍動するテンポ感に加え、特に「リフス」(演奏時間4:16)の素晴らしさは特筆すべきで、トランペットのシェイクも本格的!ドラムのテンポアップで最高潮に達し、最後のハイ・トーンも見事に決めている。

【パーヴォ・ヤルヴィによる貴重な音源】
■パーヴォ・ヤルヴィ指揮 バーミンガム市交響楽団メンバー(ジャケット画像:中段右)
 ザビーネ・マイヤー(クラリネット) ウェイン・マーシャル(ピアノ)
  (1997年6月録音、シンフォニーホール、バーミンガムにて収録、Virgin国内盤)


今や押しも押されぬ人気指揮者となったパーヴォ・ヤルヴィ(b.1962)が、今から20年前、当時バーンスタインの生誕80年を記念してリリースされたアルバムの収録曲。バーミンガム市響との共演は珍しいが、ヤルヴィ自身、ジュリアード音楽院とカーティス音楽院で学んだだけに、学生時代からバーンスタインには馴染んでいたことだろう。
クラリネットにザビーネ・マイヤー(b.1959)、ピアノにウェイン・マーシャル(b.1961)がゲストミュージシャンとして参加している点も話題性の一つ。それだけに、「リフス」(演奏時間4:47)でのソロは素晴らしく、バーミンガム市響のトランペット&トロンボーンの巧さも相まって、最高のグルーヴを作り出している。バーンスタイン盤を除くと、マイベスト2選に残る音源。

【吹奏楽団によるディスク2選】
■佐渡裕指揮 シエナ・ウィンド・オーケストラ(ジャケット画像:下段左)
  則竹裕之(ドラムス) 白石准(ピアノ)
 (2002年1月録音、横浜みなとみらいホールにて収録、ワーナー国内盤)


吹奏楽団による音源も存在する。本音源はバーンスタインに師事を受けた佐渡裕氏(b.1961)らしい選曲。ドラムにT-SQUAREの元メンバーの則竹裕之氏(b.1964)がゲストミュージシャンとして参加しているのも話題を添えている。それだけに随所でアドリブが効いている。少したるんだ感じでクラリネット・ソロがスタートされるあたりは
佐渡の狙いなのかもしれない。それだけに後半のアップテンポな盛り上がりと対照的な演出が図られている。シエナ・ウィンド・オケ参加メンバーのプレイが冴える音源。(「リフス」演奏時間/4:39)

■時任康文指揮 大江戸ウィンド・オーケストラ(ジャケット画像:下段右)
 (2002年10月3日録音、東京芸術劇場大ホールにて収録、Monday Records)


日本のスタジオ・ミュージシャンが集まって当時活動していた大江戸ウィンド・オケによる音源。それだけに期待していたが、トランペットが冒頭から音を外す等、やや痛々しい感の残る演奏となった。今回エントリーした音源の中で唯一のライヴである点は貴重。(「リフス」演奏時間/4:41)

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