最近、実に面白いアルバムを見つけた。アメリカの大手クラシック・レーベル「DELOS」(デロス)が制作した『 ハイ・ホー!モーツァルト~Favorite DISNEY Tunes in the style of Great Classical Composers 』というアルバム。サブタイトルが示しているように、ディズニーの名曲が、古今東西のクラシック作曲家のスタイルでアレンジされた曲が収録されている。演奏者はDELOSレーベルに所属する数々の著名なアーティストが参加しており、通常のクラシックアルバムとして聴けるのが何より嬉しい。
収録曲は以下の通り。
1. カラー・オブ・ザ・ウィンド~「ポカホンタス」(ドボルザーク風)
2. ハイ・ホー!~「 白雪姫」 (モーツァルト風)
3. 美女と野獣 (ラフマニノフ風)
4. The Second Star To The Right(右から二番目の星)~「ピーター・パン」(トーマス・タリス風)
5. アンダー・ザ・シー ~「リトル・マーメイド」(スコット・ジョップリン風)
6. I Wanna Be Like You ~「ジャングル・ブック」(ヴィラ=ロボス風)
7. Can You Feel The Love Tonight~「ライオン・キング」(チャイコフスキー風)
8. With A Smile And A Song~「白雪姫」(ショパン風)
9. おおかみなんかこわくない~「三匹のこぶた」(ヨハン・シュトラウス風)
10. A Dream Is A Wish Your Heart Makes~「シンデレラ」(グリーグ風)
11. メイン・ストリート・エレクトリカル・パレード (ヴィヴァルディ風)
12. Feed The Birds (Typpence A Bag) ~「メリー・ポピンズ」 (ブラームス風)
13. Little April Showers ~「バンビ」 (ヘンデル風)
14. くまのプーさん (プロコフィエフ風)
15. Prince Ali ~「アラジン」(バルトーク風)
16. 星に願いを~「ピノッキオ」 (リヒャルト・シュトラウス風)
中でも感動したのが、3曲目に収録されたラフマニノフ風「美女と野獣」。
冒頭、ストリングスによる序奏に導かれ、クラリネットがどことなく物哀しげな旋律を歌った後に、しっとりと奏でられるピアノ・ソロ・・・この曲調は、まさにラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の有名な第18変奏のテーマ!聴き馴染んでいるはずのディズニーの旋律が、まるでラフマニノフ自身が手掛けたかのような曲調で再現される。
演奏するのはDELOSレーベルを代表する女流ピアニストのキャロル・ローゼンバーガーと、英国の名門、イギリス室内管弦楽団。そして、この素晴らしいアレンジを手掛けたのは、この曲の指揮をしたドナルド・フレイザー。
このラフマニノフ版だけでなく、アルバム全体のアレンジを担当しており、ここでは、1曲目のドボルザーク風「カラー・オブ・ザ・ウィンド」や、 7曲目のチャイコフスキー風「Can You Feel The Love Tonight」、9曲目のヨハン・シュトラウス風「おおかみなんかこわくない」 、10曲目のグリーグ風「A Dream Is A Wish Your Heart Makes」、16曲目のリヒャルト・シュトラウス風「星に願いを」の計5曲で、イギリス室内管を指揮している。
ラフマニノフ版「美女と野獣」に関しては、ドナルド・フレイザー自身、「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏と前奏曲ニ長調(作品23)にインスパイアされた、とライナー・ノーツの中で語っている。
感心するのは、アレンジの完成度の高さ。ドナルド・フレイザーが各々の作曲家の作風やオーケストレーションを完璧なまでに熟知しており、ジャケットを見なくても、「この曲ってあの作曲家の曲?」と思わせるほどの仕上がりとなっている。
個人的には、英国の作曲家、トーマス・タリスの教会サウンドをアカペラ合唱で見事に再現した4曲目の「The Second Star To The Right(右から二番目の星)」や、ディズニー・ランドの定番曲をヴィヴァルディ風にギター・カルテットで再現した11曲目の「メイン・ストリート・エレクトリカル・パレード」(演奏:ロサンゼルス・ギター・カルテット)は実に興味深かった。
ディズニーという楽しいコンセプトと著名アーティストによるアルバムでありながら、輸入盤だけに国内ではあまり知られていないのが惜しい。ディズニーも好きなクラシック通(自分も含めて)にはたまらないアルバムだろう。