画像

真に素晴らしい曲というのは例えトランスクリプションであっても、原曲の本質や核心といったものが変化せず、聴き手に伝わってくる曲だと思う。バッハの「ゴルトベルク変奏曲」はその好例。自分にとってはピアノの原曲を全曲聴き通すより前に、トランスクリプション盤に出会い、慣れ親しんできた。そのトランスクリプションは3つの異なる楽器編成によるもの。深まりゆく秋、そんなディスクにじっくりと耳を傾けてみたい。

【金管五重奏版】
○カナディアン・ブラス
 (1999年6月録音、トロントにて収録、BMG国内盤)


カナダを代表する名門ブラスクインテット、カナディアン・ブラスによる演奏。実はこのディスクこそ、初めて通し聴きをしてゴルトベルク変奏曲の魅力にはまるきっかけとなった音源だった。

中学生位の頃だっただろうか、クラシックを聴き始めの頃にグレン・グールドによる「アリア」を聴いた事があったが、元々不眠症に悩んでいた国王に捧げられた曲、という知識を学んだ位で、さしたる印象は残らなかった。社会人になって、このカナディアン・ブラス盤と出会い、一転する。
鍵盤楽器と違い、吹奏楽器が生み出す伸びやかな響きと音色の見事な統一感に、すっかり魅せられてしまった。ブラス特有のゴツゴツ感はまったくない、まろやかでブレンドされたハーモニー。その響きは教会のオルガンを聴く時と同様、敬虔な気持ちにさえさせてくれる。

それはこの編曲を担当したアメリカの作曲家、アーサー・フラッケンポールとカナディアン・ブラスへの賛美でもあったが、何より、この曲の魅力にその時以来、引き込まれてしまった。
今年に入って、毎日のようにこのディスクを就寝時に聴いていた時期があったが、さすがに寝付きもよかった。現代でもその睡眠導入効果?はバツグンだ。(単に眠かっただけなのかもしれないが(^^;)

【弦楽三重奏版】
○ドミトリー・シトコヴェツキー(vn)、ジェラール・コセ(va)、
 ミッシャ・マイスキー(vc)
 (1984年11月録音、バンベルグにて収録、ORFEO輸入盤)


名チェロ奏者、ミッシャ・マイスキーも参加しているアルバム。編曲はヴァイオリンのドミトリー・シトコヴェツキーが行っている。こちらも金管五重奏同様、原曲と全く違和感がない。むしろ、元々これがオリジナルだったのでは・・・とさえ思わせる。"伸びやか&まろやか系"の金管五重奏に比べると、こちらはより"情熱&重厚系"と表現できるかもしれない。3つの楽器の音色が一つに織り合わされ、まるでバッハの無伴奏チェロ組曲を聴いているような・・・そんな気分にもなる。

【木管四重奏版】
○ホームカミング木管アンサンブル」(Homecoming Woodwind Ensemble)
 (2005年録音、quartz輸入盤)


本ブログに以前エントリーしたアルバム。木管独特の温もりがなんともいえない味わいを生み出している。"温もりのゴールドベルク"とでも呼称したい(^^)

偶然にもこれで、オーケストラの基本構成パートである、弦楽器・木管楽器・金管楽器の3つのゴルトベルク変奏曲のディスクが揃う事になった。しかも弦:3人、木管:4人、金管:5人という編成による違いの楽しみもある。つくづく、ゴルトベルク変奏曲の奥深さ、バッハの偉大さを感じる聴き比べとなった。