今宵も前回に引き続き、「のだめカンタービレ」の中で効果的に使われていた使用曲を。エントリーするのは鬼教師、江藤とのだめとのやり取りのバックでよく流れていたシベリウスの交響詩「フィンランディア」。ドラマで使用されるのはブラスセクションが重々しいテーマを奏でる冒頭部分。ほんの10秒程度しか流れないが、シチュエーションにぴったりなBGMになっていた。
既にエントリーしているギブソン&ロイヤル・フィルやオーマンディ&フィラデルフィア管(合唱版)の2名盤に引き続き、新たな名盤を聴き比べてみたい。
○ヴラディーミル・アシュケナージ指揮 ボストン交響楽団(画像左)
(1992年3月9日録音、シンフォニーホール、ボストンにて収録、デッカ輸入盤)
アシュケナージ&ボストン響の初顔合わせであり、ボストン響にとってはデッカ初録音という貴重な録音。当時デッカ専属だったアシュケナージが1992年3月5~7日にライヴでシベリウスの「交響曲第2番」を演奏した事が実現のきっかけだったようだ。ここではそのライヴ音源と共に収録されている。
まるで“ボストン響ブラスセクション協奏曲”(!)とでも呼びたくなるような金管のヴィルトゥオーゾなテクニック&サウンドが炸裂した演奏。行進曲部分ではトランペットセクションに加え、ホルンセクションが圧倒的なパワーで迫ってくる。
ここでのトランペットセクションの中心的存在といえば何といってもティモシー・モリソンだろう。1987年から1997年までの約10年にわたってボストン響の首席奏者を務めていた世界的な名奏者。なぜ名奏者なのかは、ボストン・ポップスでの活動においてジョン・ウィリアムズが彼の音色とテクニックに惚れ込んで、数々の名曲(映画「7月4日に生まれて」や「JFK」、「アトランタオリンピックのテーマ」等)を世に送り出したことでも知られている。
アシュケナージのドライヴも作用しているのだろうが、ブラスセクションをはじめ、全体的にパワーで押し切ってしまった感がするのは否めない。
録音はトランペットの音をはじめ、ややオンマイク気味の傾向。デッカとしては初めてのボストン・シンフォニーホールでの収録だったのだろうが、残響のふくよかなこのホールの特性をうまく捉えきれなかったのはやや惜しい。しかしながら幅広いダイナミックレンジで聴き応えがある。
○レイフ・セーゲルスタム指揮 デンマーク国立放送交響楽団(画像右)
(1990年8月録音、デンマーク放送コンサートホール、コペンハーゲン
にて収録、CHANDOS輸入盤)
ここにきて真打ちといえるマイベスト盤の登場となった。
詩情たっぷりに聴かせてくれる表情豊かな「フィンランディア」。このオケから奏でられる独特のほの暗さと深い響きは、北欧オケにしか出せないトーンだと思う。
何より感動したのは中間部の「フィンランディア賛歌」。通常であれば後半の行進曲に向かう通過点としてさらっと流してしまう演奏が多い中、たっぷりと旋律を歌わせたこのセーゲルスタム盤からは、自然と人間の共生という敬虔な祈りに満たされた世界観を感じる。
作曲当時のフィンランドはロシアの帝政下からの独立の機運が高まっていた時期でもあったので、作曲者本人も、支配からの「独立」や「自由」「平和」といった思いも込めていたのだろう。
冒頭や行進曲部分もボストン響に負けず劣らず素晴らしい。そこには、残響豊かなホールトーンをすみずみまでとらえたCHANDOSのウェルバランスな録音手法も大きな成果を上げているように思う。
指揮者セーゲルスタムへの関心もぐっと増すきっかけとなった。セーゲルスタムは1988年から1995年までデンマーク国立放送交響楽団の首席指揮者・音楽監督を歴任している北欧を代表する指揮者。まるでサンタクロースのような風貌がまたいい(^^) CHANDOSへの録音も多数残されているので、この機会に聴いてみたいものだ。