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クラシック・カフェ版「世界ふれあい街歩き」の締めくくりとして、最後に「ドレスデン編」を。ドレスデンといえば、何といってもゼンパー・オーパーを本拠地とするシュターツカペレ・ドレスデンしかないだろう。今回プレイリストに入れた音源はいずれも1980年代のもの。まだ統一ドイツとなる前の旧東ドイツ時代の音源だけに貴重だ。それぞれ、DENON、PHILIPS、ソニーとメジャー・レーベルからのリリースだが、いずれも旧東ドイツの国営会社であるドイツ・シャルプラッテンの共同制作となっている。旧東ドイツ時代だけに、共同制作がレコーディングの条件でもあったのだろう。ここでは、1975年から1985年まで首席指揮者の座にあったブロムシュテット(b.1927)、また1980年代に客演指揮者の立場にあったサー・コリン・デイヴィス(b.1927)、そして1982年に常任指揮者に就任し、日本人としてシュターツ・カペレ・ドレスデンに馴染みの深い若杉弘(1935-2009)の3名のマエストロによる演奏を。いずれもレコーディング会場は当時のスタジオであった聖ルカ教会となっており、レーベルによるサウンドの違いにも注目したい。(ジャケット画像:左上より時計回り)

【モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」~第4楽章】

○ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
 (1981年8月録音、聖ルカ教会にて収録、DENON国内盤)

○サー・コリン・デイヴィス指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
 (1981年10・11月録音 聖ルカ教会にて収録、PHILIPS国内盤)


同一オケによる「ジュピター」だけに、興味の沸く所。しかも、録音はわずか2か月差!普通ならありえない録音スケジュールだと思うが、異なるレーベルで、二人とも人気の指揮者だっただけに、各レーベルの思惑がみてとれる。
個人的には、ブロムシュテット盤より、デイヴィス盤の方が好み。オケの自発性をデイヴィスがうまく吸い上げており、「ジュピター」の終楽章というだけでなく、一連の交響曲の最終楽章を占めるに相応しいモーツァルトの天真爛漫らしさがよく出た演奏となっている。一方のブロムシュテット盤は、終楽章に求めたい推進力が所々で停滞気味に感じられるのがやや残念。
サウンド的には、聖ルカ教会の残響成分がたっぷり取り込まれたブロムシュテット盤のDENONにも惹かれるが、PHILIPSは“いぶし銀”と称されるシュターツカペレ・ドレスデンのサウンドをよく捉えており、ストリングスのシルキーな手触りがより感じ取れる点でお気に入りだ。

【ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」~第4楽章】

○若杉弘指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
 (1985年6月録音、聖ルカ教会にて収録、ソニー国内盤)


【マーラー:交響曲第1番「巨人」~第2楽章、第4楽章】

○若杉弘指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
 (1986年8月録音、聖ルカ教会にて収録、ソニー国内盤)


最後に、シュターツカペレ・ドレスデンに馴染みの深い日本人指揮者として、惜しくも昨年7月に亡くなった若杉弘(1935-2009)氏の音源もプレイリストへ。若杉氏が1982年にシュターツカペレ・ドレスデンの常任指揮者に就任以降、レコーディングした3枚のアルバムの内、ワーグナーのものは、以前、本ブログでもエントリーしていたので、ここでは残る2枚のベートーヴェンとマーラーのものを。
両演奏に感じられるのは、若杉氏らしい生真面目な性格の出た手堅い演奏である事。髪を振り乱して指揮をしたくなるような「巨人」の終楽章でも、最初から熱せず、奏者のエネルギーを温存させながらも、最後のエンディングで一気に燃焼させていくような展開は、若杉氏ならではの綿密な構築力によるものだろう。
両曲とも交響曲1曲に対し、レコーディングには計5~6日間をかけている事から、当時はじっくりとレコーディングに向かい合える時間があったものと思われるし、レコードとしての記録に耐えうる良い音楽を作ろうという指揮者・オケの丁寧な姿勢が感じられる。
なお、「巨人」のジャケット裏には、聖ルカ教会でのレコーディング風景(画像下)が映っているのも、当時の様子を垣間見ることができ、ありがたい。写真を見る限り、高い吹き抜けとステンドグラスから、教会の構造を確認できると共に、板張りの壁や床や、照明も完備されている事から、レコーディングには適した会場であった事が窺える。
もう一つは、この「巨人」のレコーディング風景。通常、金管セクションは一つの島で固めることが多いものだが、ここではホルンと、それ以外の金管を分離させている。ステレオ感を強調したものなのか、この聖ルカ教会の音響上なのかは分からないが、興味深い。そういった工夫もあっての事なのだろう、ステレオ・バランスは明確だ。ストリングスのシルキー感はPHILIPSの方が一歩上回るが、ソニーはドイツのオケならではの重厚感をよく捉えた録音となっている。3枚のアルバムとも、優秀録音だと思う。


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