『ウエスト・サイド・ストーリー』の「シンフォニック・ダンス」には、原曲のオケ版以外にも、様々な版が存在していた。手持ちのディスクより、ピアノ・ソロ版と吹奏楽版を。
いずれもバーンスタインに影響を受けた世代のアーティストによるもの。バーンスタインへの深い愛情が感じられる、そんな演奏に耳を傾けてみたい。
②「シンフォニック・ダンス」(ピアノ・ソロ版、吹奏楽版)
【ピアノ・ソロ版】
○ダグ・アシャツ
('86年11月録音、スウェーデンにて収録、BIS輸入盤)
「シンフォニック・ダンス」にピアノ版がある事を知って興味本位で(?)購入したディスク。このようなトランスクリプションが存在していたとは驚きだ。
ジャケットを見てまずびっくり、バーンスタインがダグ・アシャツに肩を組んで談笑している。ライナーノーツにはバーンスタインがイスラエル・フィルを伴ってパリに演奏旅行に出た際のやりとりが記されているので、おそらくその時のものなのだろう。改めてバーンスタインの幅広い交友関係を伺わせる。
演奏はピアノ・ソロでも「シンフォニック・ダンス」の迫力や原曲のエッセンスを感じ取るのに十分なもの。さすがに「マンボ」では、パーカッションパートはもちろんは省かれるし、トランペットのシェイク等、テクニカル上の限界はあるが、そんな壁を克服するだけの表現力をこのピアノ・ソロ盤は有している。原曲の多彩な楽器構成を考えると相当な難易度を要求されたトランスクリプションであったと思うが、しいていえば、もう少し演奏にはノリがほしかった(^^)、
ダグ・アシャツについては自分は初めて名前を聞くピアニストだが、ライナーノーツによると'42年ストックホルムの生まれ。BISレーベルからはオケ版の編曲もの中心のアルバムを出しており、「春の祭典」といったレパートリーもあるようだ。なお、夫人は日本人ピアニストで、デュオでも活躍しているようだ。
【吹奏楽版】
○佐渡 裕指揮 シエナ・ウィンド・オーケストラ
('99年7月19~21日録音、すみだトリフォニーホールにて収録、
ERATO国内盤)
バーンスタイン晩年の愛弟子、佐渡裕による指揮。彼自身、バーンスタイン生誕80周年にあたる'98年から没後10周年にあたる'00年までを「バーンスタイン・メモリアル・ピリオド」と位置づけており、その意味での選曲という狙いもあったようだ。先日エントリーした「キャンディード序曲」をオープニング曲に、メインに「シンフォニック・ダンス」を選曲に据えているあたり、バーンスタインへの並々ならぬ愛情を感じる。
ここではブラバン界の巨匠で、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」でお馴染みの岩井直博氏による編曲がとられている。オケ版の原曲の雰囲気を全く損っていないのが素晴らしい。まるでバーンスタイン本人による吹奏楽版も存在してたかのようだ。
演奏はバーンスタイン譲りのノリノリなもの。「マンボ」のシャウトも団員のフレッシュぶりが感じられて爽快(^^)テクニカル的な所も全く問題なく、個々団員のレベルの高さを伺わせる。「マンボ」「クール」共にトランペットセクションのハイパフォーマンスも素晴らしい。
何より佐渡裕氏のタクトの元、一致乱れぬアンサンブルと熱い演奏が、聴いている側の気持ちも熱くさせてくれる。
彼らのゴールデン・コンビによる快進撃ぶりはあたかもバーンスタインとニューヨーク・フィルの全盛期を思わせる。
すみだトリフォニーホールの程よい残響感もブレンドされたハイレベルな録音である事も特筆しておきたい。