渡哲也と中山美穂が出演し、9月にオンエアされていたジョージア・ヴィンテージ・レーベルのCM。そこではモーツァルトの「交響曲第25番」ト短調の一楽章の冒頭の主題が効果的に使われていた。「交響曲第25番」といえば、高校時代に見た映画「アマデウス」の冒頭で流れていたテーマ曲という印象があまりにも強いが、コーヒーのCMの異色の共演とも中々マッチしていた。
「交響曲第25番」は全楽章の中で1楽章が最も演奏時間が長く、それだけに冒頭から溢れ出る疾走感をどれだけ表現できるかを、自分なりのポイントにしている。作曲当時、モーツァルトはまだ17歳。現代ではまだ高校時代に当たる年頃でこのような曲を作曲してしまう所に天才を感じてしまう。
今宵はラファエル・クーベリック、レナード・バーンスタイン、ブルーノ・ワルターの3人の敬愛する巨匠達の貴重なライブ音源を通して、ライブならではの臨場感を味わってみたい。
(画像:左上より時計回り)
○ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
('81年1月22日ライブ録音、Kaisersaal、Wurtzburgにて収録、
オルフェオ輸入盤)
第1楽章冒頭からの疾走感の表現と緊張感の持続が素晴らしい。'81年といえば、ちょうどCBSで6大交響曲集を録音した翌年にあたり、クーベリックのタクトの元、オケもセッション録音と変わらない見事な演奏で応えている。25番のセッション録音は残っていない意味でもこのライブ盤は貴重だ。
ここではライブならではの要素もプラスに働いており、呼吸を充分に取りながらも自然とボルテージの上がったパフォーマンスが楽しめる。
なお録音は、放送音源でありながも臨場感をよく捉えており、十二分に満足できる出来。現状でのマイベスト盤としたい。
○レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
('88年10月ライブ録音、ムジーク・フェラインザール、ウィーンにて収録、
ドイツ・グラモフォン輸入盤)
第1楽章冒頭はクーベリックに比べると、やや遅いテンポ。ストリングスからオーボエに旋律が移るとソロを歌わせるためか、よりゆっくりとしたテンポに。バーンスタインらしい(?)激情型のパフォーマンスはここでは感じられず、モーツァルトの音楽性と、ウィーン・フィルの自発性にゆったちと身を委ねている感じだ。
その為か、疾走感というものは今一つだが、ウィーン・フィルの芳醇なサウンドを引き出す事には成功していると思う。
ドイツ・グラモフォンのライブ録音はセッション録音に近い収録方法をとっている為か、聴衆ノイズも発生せず、快適に聴ける。
○ブルーノ・ワルター指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
('56年7月ライブ録音、ザルツブルグ祝祭劇場にて収録、
CBSソニー国内盤)
このディスクに出会うまではワルター晩年のコロンビア交響楽団との一連のセッション録音に慣れ親しんできた自分にとって、このウィーン・フィルとの「交響曲第25番」を初めに聴いた時は驚いた。かくもウィーン・フィル時代のワルターは激しかったのか・・・と思わせる演奏。当時80歳に達する年齢とは思えない。特に1楽章冒頭は、疾走を通り越して、なぜそんなに生き急ぐの?と思わせる程の高速なテンポ。一瞬マスターテープの回転速度が違っているのでは、と思った程だ。
しかし、そんな印象は2楽章を聴いた途端、一転した。1楽章で消耗したエネルギーを、2楽章のアンダンテで呼吸をたっぷりと吸わせる事で3楽章のメヌエットにつなぎ、終楽章では1楽章同様の緊張感と疾走感で締めくくる。巨匠ワルターが長年のモーツァルト演奏から体得し得たテンポ感なのだろう。聴けば聴くほどに味わい深くなってくる演奏だ。
同じウィーン・フィルを指揮したバーンスタイン盤と比較してみるのも面白い。
なお、モノラル後期ではあるものの、録音はオンマイクに傾きがちで、ライブならではの臨場感が損なわれているのが残念。歴史的価値のある音源ではあるものの、何度も聴くには少し耳に疲れるサウンドになってしまった。