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自分にとってピアノ曲を弾く時のオープニング的な位置付けであるゲーム・ミュージックの「ソーサリアン」に続き、もう1曲、学生時代から愛奏してやまないピアノ曲がある。それは服部克久作曲の「ル・ローヌ」という作品。ソーサリアンの弾き始めは中学生の頃だったが、「ル・ローヌ」を練習し始めたのは大学時代の頃だった。服部克久氏の音楽は彼のライフワークであるアルバム「音楽畑」を以前より愛聴していたが、中でも「音楽畑3」(1986年作品)に収録された「ル・ローヌ」というピアノとストリングスが奏でる美しい曲に惹かれ、かねてより一度弾いてみたいと思っていた。そんな矢先、この「音楽畑3」の収録曲がピアノアレンジされた楽譜集(画像)の存在を知り、当時アルバイトで貯めたお金で購入したキーボードで夢中になって練習。そのうち暗譜で弾くことができるようになり、20年以上が経った今でもソーサリアンと共に愛奏するレパートリーの一曲となっている。昨年、街中で遭遇したストリート・ピアノでもソーサリアンと共に弾いたのを思い出した。

「ル・ローヌ=Le Rhone」はフランス語で「河」の意味。パリのコンセルヴァトワールで学んだ服部氏のセンスが活きた楽曲で、ヨーロッパの国々や街並みを通り抜ける河のせせらぎや、生活の大動脈としての河の存在を通じ、自然と人間の調和や人生の大切さを教えてくれるような、そんな曲でもある。
冒頭、オクターブで開始されるシンプルで美しい旋律にまず引き込まれる。途中、少しマイナー調の哀しげな旋律が表れた後、冒頭の旋律が繰り返される。そして曲後半は転調してクライマックスへ。河の雄大な景色を空から眺めるようなダイナミックな旋律は、弾き度に心が澄み渡るような、そんな感動を与えてくれる。そしてきらびやかに終わるエンディング。演奏時間は約3分半ほどだが、何か一つ大曲を弾き終えたような、そんな弾き心地があるのだ。楽譜集に「(ローヌの流れは)人の一生にも似て、美しくも又あわれ」という作曲者のコメントが記載されているが、まさに、ル・ローヌ=人生の象徴のようでもある。

過去に駅ピアノ・空港ピアノのNHK番組で、「渚のアデリーヌ」(1976年作品)を弾く人の演奏を聴いたことがあるが、この曲はポール・ドゥ・センヌヴィルの作曲で、フランス人ピアニストのリチャード・クレイダーマンによって世界的に大ヒットした曲。それだけに、ストリート・ピアノでも弾かれる回数が多いのは想像できるが、服部克久氏の「ル・ローヌ」も欧州の人々を含め世界中で受け入れられる親しみやすさや、ピアノ曲としての弾き応えもあり、日本人作曲家によって生み出された名曲だと個人的に感じる。音楽畑のピアノ版となるアルバム「音楽畑 Best Selection PIANO ANTHOLOGY」(画像)には作曲家本人の演奏による「ル・ローヌ」が収録されているし、YouTube上でも服部氏自身がピアノで弾く姿を見かけることができ、本人も自身の作曲の中でお気に入りの一曲だと思う。

余談ではあるが、前回エントリーした「ソーサリアン」のスーパー・アレンジ・バージョンを手掛けた難波弘之氏は山下達郎のライヴ・サポートメンバーの一員。また、山下達郎にとって服部氏は達郎作品の欠かせない編曲者でもある。敬愛する音楽家同士がつながっていることに縁を感じる。

現在、暗譜で弾けるのは「ソーサリアン」とこの「ル・ローヌ」の2曲。これに加え、楽譜付きで和泉宏隆氏の「FORGOTTEN SAGA」と最近自己流アレンジで開拓したラーシュ・ヤンソンの「MORE HUMAN」を弾くのが一連のマイレパートリーとなっている。いずれも自分にとってかけがえのない作品。昨今の新型コロナウイルスの感染拡大によって、街中のストリートピアノも影響が及んでいるの残念だが、またどこかで見かけることがあれば、これらの曲を感じたままに弾いてみたい。自分のお気に入りのピアノ曲が街中の音の一つとして溶け込むことができれば、こんなに楽しいことはないだろう。



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