「のだめカンタービレ」で登場したモーツァルトの「オーボエ協奏曲 ハ長調」には実は同様のメロディーで演奏される「フルート協奏曲第2番 ニ長調」なる曲がある。作品番号も同じ「K.314」。
「オーボエ協奏曲」の総譜が発見されたのは1920年頃。それまではオーボエ協奏曲の存在は知られていたが演奏される事はなかった・・・となると、「フルート協奏曲第2番 ニ長調」はダミー? 実はこの曲もれっきとしたモーツァルトの作曲。「フルート協奏曲」は全部で2曲が作曲されているが、そのうちこの一曲をこの「オーボエ協奏曲 ハ長調」を編曲(調性はハ長調→ニ長調に転調)した事になる。楽器は違えど、同じメロディーを奏でる曲が存在するのは珍しい。兄妹のような存在の曲といえるだろう。
華やかなイメージのフルート演奏で聴こうと、CD棚からひとつかみ。2枚のディスクが出てきたので、早速聴いてみる。演奏者は下記の通り。
①ジェニファー・スティントン(fl)
タマーシュ・ヴァーシャリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
('89年9月録音、ヘンリー・ウッドホールにて収録、Collins輸入盤)
②スーザン・ミラン(fl)
レイモンド・レッパード指揮 イギリス室内管弦楽団
('88年2月4・4日録音、オール・セインツ教会にて収録、CHANDOS輸入盤)
ジェニファー・スティントンは以前エントリーした奏者。ジャケットの顔写真も実に似ている美人なお二人だが(^^)、キャリアもまた似ている。二人とも、英国の名門、ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで学んでいる事、そしてロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団への在籍経験があること。スティントンはゲスト・プリンシパル(客演首席)、ミランは首席奏者というプロフィールからすると、ミランの方が実力・経験共に先輩にあたるのだろう。その経験を裏付けるように指導者としても世界的に活躍しており、日本のフルーティストの一人、山形由美氏も彼女に師事していたようだ。
録音もほぼ同時期、英国を代表する2つのオケとの共演している。以下印象をコメントしてみたい。
①は前回の「オーボエ協奏曲」でエントリーしたオケとの共演によるもの。この時期、Collinsレーベルは自国の若手のモーツァルトの協奏曲チクルスにも積極的な時期だったのだろう。
フィルハーモニア管のふくよかな響きが実にいい。こういう演奏を聴いていると、ソロイストはもちろんだが、伴奏のオケにもついつい耳がいってしまう。ヴァシャーリの手腕による所も大きいのだろう。
スティントンの音色は、伴奏のオケとうまく溶け合い、両者一体の演奏を聴かせてくれる。スティントンの演奏自体も伸び伸びとしており、しなやかで美しい。
②は以前、バロック名曲集でエントリーしたオケとの共演によるもの。室内オケのため、フィルハーモニア管のメンバーよりはメ伴奏メンバーもやや少なめと思われる。それがテンポにも反映されており、はスティントン盤と比べるとやや早めのテンポ。
まず、フルートの音色そのものが美しい。フルートメーカーの事は良く分からないが、英文のライナーノーツによると、イギリスの名フルート職人&デザイナーであるAibert Cooper氏による1980年製のものだという。このような世界は全てがオリジナルのハンドメイドなのだろう。
ミランの音色には息漏れの影響が感じられない。フルートの構造はよく分からないが、ほぼ100%の息が音色に転化されている。メカニカルな機構(楽器)によるものなのか、演奏者によるものなのかは分からない。
その音色は彼女の演奏自体も実に華やさを帯び、軽やかで実にソリスティック。ミラン自身、ロイヤル・フィルを経てソロイストとして活躍しているが、そのようなソロイスト志向が感じられる演奏だ。
録音もCHANDOS常連のオール・セインツ教会の素晴らしい残響とあいまっていつもながらに高品位だ。
共に英国を代表するレーベルや、英国では共に好んで使用される収録会場である事など、他にも共通点が多く、演奏以外の楽しみも発見できたディスクとなった(^^)