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BSテレ東の音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」は自分にとって視野を広げてくれる作品が取り上げられ、興味深いプログラムが多い。6月にオンエアされた過去の再放送特集では、番組ナビゲーターで指揮者の藤岡幸夫氏が愛して止まないというシベリウスの「交響曲第5番」変ホ長調作品82が取り上げられたが、番組を通じてこの曲がポピュラーな交響曲第2番と並ぶ名曲であることを再認識させてくれた。作曲時期は第一次世界大戦の最中という暗黒の時代ではあったものの、シベリウス自身の50歳の祝賀演奏会に向けて作曲されただけに、作品自体は北欧の大自然に加え、祝祭的な雰囲気も感じられる。
第1楽章のホルンと木管の掛け合いで始まる冒頭は、どこか交響曲第2番冒頭との共通点を感じさせるし、第2楽章はフルートのさえずりが、北欧ののどかな自然の風景を感じる。そして終楽章は金管が奏でる高貴なテーマや、白鳥が飛んで消えていく姿が思い描かれたシーン等、聴き所がたくさん。白鳥にシンパシーを感じていたという作曲者のエピソードも番組内で語られており、シベリウス作品の魅力を改めて知ることになった。
ここではシベリウスに縁の深い3名の指揮者による3枚のディスクを取り上げ、感想を綴っておきたい。

■サー・アレクサンダー・ギブソン指揮
 ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 
 (1982年録音、SNOセンター、グラスゴーにて収録、CHANDOS海外盤、ジャケット画像左上)


実にスケールが大きな演奏で、今回のマイベスト盤。サー・アレクサンダー・ギブソン(1926-1995)がロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管の首席指揮者だった56歳時のレコーディング。ストレートにぐいぐいと切り込んでいくタクトさばきで、ダイナミクスの付け方もうまく、それが音楽的な推進力につながっている。ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管のややクールな音色且つ重量感ある金管楽器の響きは北欧の厳しい大自然を感じさせる。特に終楽章の鐘のように鳴るホルンセクションの響きは、北欧の自然そのまのの雄大さを感じさせ感動的。終結部も素晴らしく、最後の6連打も力強く終わる。
ギブソンはシベリウス協会からシベリウス・メダルを授与された指揮者で、シベリウス作品のスペシャリストでもあった。68歳という若さで亡くなったのは悔やまれるが、CHANDOSレーベルで完成させた交響曲全集は、後世に残るディスク世界遺産となるだろう。

■ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
 サンフランシスコ交響楽団
 (1989年録音、デイヴィス・シンフォニーホール、サンフランシスコにて収録、DECCA海外盤、ジャケット画像右上)


ヘルベルト・ブロムシュテット(b.1927)が61歳時のレコーディング。彼はアメリカ生まれのスウェーデン出身のため、北欧の音楽はある意味ルーツでもあるのだろう。それゆえに、北欧出身の指揮者ならではの表現を感じさせる。また、彼が1985年から1995年まで音楽監督として率いたサンフランシスコ響のサウンドから北欧的な洗練されたサウンドを引き出しており、米国のオケから柔らかな響きを感じ取る事ができる。ギブソン盤を上述の印象から男性的な表現に分類するとすれば、ブロムシュテット盤は女性的といえるかもしれない。最後の6連打は今回エントリーした3つの音源の中では最も遅く、一音一音がホールの残響と共に響き渡る。

■パーヴォ・ベルグルンド指揮
 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
 (1986年12月録音、カルチャーホール、ヘルシンキにて収録、東芝EMI国内盤、ジャケット画像下)

本家北欧オケによる演奏。パーヴォ・ベルグルド(1929-2012)が57歳時のレコーディング。フィンランド且つシベリウス音楽院出身の指揮者だけに、シベリウス作品を完全に手中に収めているのが窺える。1楽章から北欧らしさを感じる味付けが満載で、中間部で高鳴るトランペットは実にキレがよく、指揮者&オケの自国共演ならではのフレージングを感じる。もう一つの聴きどころは第3楽章。鐘のように鳴るホルンのリピート部分でダイナミクスを付けることで、白鳥が遠方から飛来してくるような遠近感が醸し出され、上記2つの音源にはない発見があった。最後の6連打はギブソン盤と異なり、優しく終わる。これもベルグルンド流の解釈なのかもしれない。