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アメリカの名門、ジュリアード弦楽四重奏団の来日公演を聴く。弦楽四重奏といえば、7月に札幌のPMF音楽祭でライナー・キュッヒルを含めたウィーン・フィルのメンバーの野外公演を聴いたのが記憶に新しいが、今回はアコースティックなホールでじっくりと向かい合うことで、弦楽四重奏がこれほどまでに濃密なものだったとは!と思わせるひとときとなった。
ジュリアード弦楽四重奏団といえばCBSを中心に数々の名盤が残されている1946年に創設された結成70年を超える老舗の団体。メンバー交代は進み、特に第一ヴァイオリンのアレタ・ズラは、本年9月に2011年から第1ヴァイオリンを務めていたジョセフ・リンと入れ替わったばかりで、その意味でデビュー戦ともいえるが、そんなことは微塵も感じさせない、一糸乱れぬ緻密な演奏を繰り広げていた。当夜のプログラムは以下の通り。

○ハイドン/弦楽四重奏曲 ヘ長調 「雲がゆくまで待とう」 Op.77-2, Hob.Ⅲ-82
○バルトーク/弦楽四重奏曲 第3番
○ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲 第11番 ハ長調 Op.61, B.121

 ジュリアード弦楽四重奏団
 アレタ・ズラ(バイオリン)、ロナルド・コープス(バイオリン)、ロジャー・タッピング(ビオラ)
 アストリッド・シュウィーン(チェロ)


1曲目のハイドン。ハイドンの弦楽四重奏がこんなにも心躍らせてくれるとは!と改めて感動させてくれた。目の前で繰り広げられる音楽は実に有機的且つ新鮮で、古典音楽ながら時代に古びないものをもっている。以前コンサートで聴いたファジル・サイのピアノ・ソナタを聴いた時も同じ感覚だった。
4人の奏者が個々に奏でるフレーズが各々のパートに移りゆく様や、密に重なり合うパートの動きを見ていると、弦楽四重奏は耳だけでなく、目からも音楽を楽しませてくれる編成であることに気づかされる。個々の奏者の弓や楽器の動き、奏者の揺れ動く様が音楽表現に直結しており、それが結果としての演奏パフォーマンスにつながっている。メンバー構成を見ると外声部を女性が支え、内声部を男声が支えているのも今回の特徴といえるかもしれない。男性と女性で世代も異なるのでそのあたりも彼らの音楽表現にどういきるかが楽しみでもある。

また、2曲目のバルトークの弦楽四重奏を聴くのは今回初めてだが、個人的にも好きな「管弦楽のための協奏曲(通称:オケコン)」のパッセージに共通点があって面白かった。ハイドンとは時代も作風も全く対称的。いわゆる現代音楽的な響きもあり、バルトークの個性を改めて感じさせる。ハイドンとは異なる高い技巧が要求される曲ながら、ジュリアード弦楽四重奏団は見事な表現力をきかせてくれた。特に今回が日本デビューとなるアレタ・ズラには女性ならではの華があり、若手ながら天才的な感性がパフォーマンスにも表れていた。既にこの名門四重奏団をリードする才覚に満ち溢れているのがすごい。第1ヴァイオリンは主旋を担う重要なパートだけに、全体の響きも変わったと思われるが、この団の伝統の響きは脈々と受け継がれているに違いない。第一奏者の交代で思い出すのが、2010年に聴いたロンドン交響楽団ブラス・クインテット。第1トランペットが当時ロンドン響の首席奏者に就任したばかりの当時22歳の若手のフィリップ・コブだったが、素晴らしいテクニックと音楽性に脱帽したのを覚えている。今回も同様な印象に近い。

休憩を挟み、3演目はドヴォルザーク。有名な弦楽四重奏曲第12番の「アメリカ」ではなく、一つ前の11番を取り上げている。例えば、チェコの名門、スメタナ四重奏団のようなチェコ訛り的なカラーはないものの、やはり響きは新鮮。アメリカの団体だからこそ出せる音なのかもしれない。アンコールはその有名な「アメリカ」より2楽章を披露してくれ、聴衆をわかせてくれた。

世代交代が進みつつも、ジュリアード弦楽四重奏団という名門ブランドは不変であることを感じさせてくれた一夜だった。彼らの新たな門出に期待したい。