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スカルラッティは最近ようやく自分の耳に馴染むようになってきた作曲家の一人。九州に住んでいた頃にシフ盤を購入し、何となく聴き始めたのだが、昨年秋にちょっとしたきっかけがあった。最近目覚ましい活躍をしている若手ピアニスト、清塚信也氏によるスカルラッティのソナタ。ピアノの試弾用に弾いた曲で、彼にとってはちょっとした指ならしに過ぎなかったのかもしれない。しかし随所に感じられる即興性から、スカルラッティの愉しさを味わう事が出来た。ジャズに通じる要素もその一要因かもしれない。

そこでアンドラーシュ・シフによるソナタ集を(75年録音、フンガロトン国産盤、日本語ライナーノーツ付)。

シフの一番最近のスカルラッティ録音は'87年録音のデッカ盤のものだが、これは'75年録音でハンガリーの国営レーベルのフンガロトンによるもの。
その愉しさは例えばソナタト長調K.427で味わえる。それはバッハで好きなイタリア協奏曲のノリともまた違ったものだ。

一方、ソナタホ短調K.394はどこかで聴いた事のあるメロディ…と思ったらフィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルのトランスリプションによる録音を聴いたのがこのソナタとの初めての出会いだった。

唯一残念だったのは録音。会場の残響の間接音の比重が少なく、ピアノの直接音のみが耳につく。ごつごつとしていて、響板にマイクを突っ込んだような感じ。これは当時のフンガロトンの録音スタイルだったのか?シフがこの録音に満足したにせよ、しなかったにせよ、デッカに再録音したのも分かる気がする。

なお、このCDが日本コロムビア(デノン)で製造されているのも興味深い。デノンはベルリンやドレスデンのシュターツカペレ等、当時東ドイツで録音を多く手がけており、その関連からかもしれない。

日本語のライナーノーツにはシフが青年時代から天才と目されていた事や、その後の方向性を決めた二人の師匠(フランツ・リスト音楽院のカドシャ教授やイギリスの名チェンバリスト、ジョージ・マルコム)との記載があり、実に興味深かった。