「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」こと「熱狂の日」の開催が今年も迫ってきた。今年で4回目となる今回のテーマは“シューベルトとウィーン”だという。毎回テーマを決めるのはアーティスティック・アドバイザーのルネ・マルタン氏。第1回の“ベートーヴェンや、第2回の“モーツァルト”に比べると今回は地味な印象を受けるが、そこはマルタン氏のこと、同時代の作曲家の作品も取り上げて、シューベルトの知られざる側面やウィーン色が強く出たプログラムになりそうだ。昨年の「熱狂の日」でミシェル・コルボのフォーレ「レクイエム」を聴いた感動も蘇ってくるだけに、今年も機会を窺って行ってみたいところ。そのせいか(?)最近の朝の通勤時間はi-Podでシューベルトを聴く事も増えてきた。
今宵はシューベルトの室内楽の代表作、「ます」と「死と乙女」にじっくり耳を傾けてみたい。
①シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調 「ます」
②シューベルト:弦楽四重奏曲第14番ニ短調 「死と乙女」
①ピアノ五重奏:セタ・タニエル(ピアノ)&アルベルニ弦楽四重奏団のメンバー+コントラバス
②弦楽四重奏:アルベルニ弦楽四重奏団
(1989年11月録音、スネイプ・モールティングスにて収録、Collins輸入盤)
「ます」は以前にもナッシュ・アンサンブルの名盤をエントリーした事があったが、今回はシューマンのピアノ協奏曲での記憶が新しいピアニストのセタ・タニエル(画像:下)が参加した名盤を。
まず、録音が良い。ブリテンも愛したスネイプ・モールティングスのふくよかな残響がよく録れている。ピアノはややオフマイク気味に録られている分、弦との旋律の対比がより明確になり、ピアノと弦パートのかけあいも楽しめる。躍動的な3楽章はその好例だ。
有名な4楽章では、弦楽器による有名な主題の後、ピアノが活き活きと旋律を奏で出す。タニエルのピアノが実にクリアで心地よい。
しかし、このディスクの最大の聴き所は、カップリングの「死と乙女」かもしれない。演奏団体のアルベルニ弦楽四重奏団は'60年代に結成されたイングランドのエセックス州ハーロウに本拠を置く英国の団体だが、実にホットでドラマティックな演奏を繰り広げており、自分の中では一気に注目株の弦楽四重奏団となった。
冒頭、悲劇的でショッキングな旋律を奏でる1楽章から高い集中力。そんな悲劇的な中にどこか一筋の光を感じさせる2楽章では、弦楽器本来の温かみのあるサウンドが聴き手を和ませてくれる。そして後半の3楽章からは、スリリングな展開に。4楽章はこの作品のクライマックスともいえる楽章で、4本の弦が息もつかせぬ迫力で一気に終結部へと突き進む。
この作品が27歳当時に作曲したとは思えない傑作であると共に、わずか31年という生涯の中で、このような傑作を生み出したシューベルトという作曲家に改めて驚かされる。彼にとっては、モーツァルト以上に疾走の人生だったのかもしれない。マーラーがこの曲をストリングス版に編曲した理由も分かる気がする。