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今年はオリンピック・イヤー。夏からはロンドン五輪が控えている。自分にとってお気に入りの国の一つである英国が脚光を浴びるのは嬉しい。英国を代表する国民的作曲家といえばサー・エドワード・エルガー(1857-1934)、という事で、今回はエルガー作品を。
エルガーというと、「威風堂々」に代表されるように、勇壮でフルサウンドの曲が思い浮かぶが、小品も数多く残している。その筆頭に挙げられるのが、「愛の挨拶」。エルガーが31歳の時の作品で、8歳年上の夫人に捧げられた愛らしい曲だ。以前よりラジオやTVの名曲アルバム系のBGMで用いられている事もあり、タイトルを知らなくても耳馴染みのある曲だと思う。今回はオケ版からピアノ版まで、8つの音源を聴き比べしてエルガー作品の魅力を味わってみたい。(ジャケット画像:左上から時計回り)

【オケ版】
■アンドリュー・デイヴィス指揮 フィルハーモニア管弦楽団
 (1987年6月録音、アビーロードスタジオにて収録、EMI国内盤)


今回取り上げた中でのマイベスト盤の一つ。「愛の挨拶」といえばこれ、と太鼓判を押せる音源で、万人向きの演奏といえるだろう。指揮者のアンドリュー・デイヴィスは、以前、本ブログでもウォルトンの「ペルシャザールの饗宴」をエントリーしており、英国作品で数多くの名演を残しているが、作品の愛らしい一面が実に良く出ている。

■サー・チャールズ・グローブズ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
 (1988年録音、ロンドンにて収録、DENON国内盤)


懐の大きな、包み込まれるような演奏。以前、ルロイ・アンダーソンの作品をエントリーした名曲アルバムに収録。最初はそのゆったりとしたテンポに慣れなかったものの、聴き込んでいく内に味わい深く、同じフィルハーモニア管を起用したデイヴィス盤とは甲乙付け難い音源となっている。本アルバムは名曲アルバムの収録曲の一つで、当時、第一線からは遠ざかっていたグローブズ(1915-1992)の健在ぶりと共に、巨匠のエルガーに対する限りない敬愛ぶりが窺える。

【ヴァイオリン&オケ版】
■ヤン・パスカル・トルトゥリエ指揮&ヴァイオリン アルスター管弦楽団
 (1989年6月録音、アルスターホールにて収録、CHANDOS海外盤)

アルバム「Violin Favourites」に収録。以前エントリーしたフレンチ・アルバムの名盤が記憶にあたらしい指揮者のトルトゥリエが、もうひとつの本業であるヴァイオリンの独奏で名曲を奏でている。ヴァイオリンと指揮の掛け持ちだったのだろう、今ひとつ乗れていない節もあるが、フランス人が奏でる英国の名曲という意味でも貴重な音源。

■ノーマン・デル・マー指揮 ボーンマス・シンフォニエッタ
 (1976年7月録音、ギルドホールにて収録、CHANDOS海外盤)


アルバム「Elgar Favourites」に収録。ノーマン・デル・マーは以前、「威風堂々」でエントリーした英国出身の指揮者。ここでは威風堂々の勇壮さとは対極的な小品集を集めたアルバムで勝負しているのが印象的で、ゲスト共演のトルトゥリエ盤と異なり、オケメンバー(おそらくコンサート・マスターと思われる)が独奏を担当している点や、ボーンマス・シンフォニエッタの室内オケに近い規模感がこの曲にマッチしており、ハートフルな演奏に仕上がっている。エルガーを知り尽したマーならではのセンスが光る演奏。

【室内楽版】
■アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ・チェンバー・アンサンブル
 (1992年9月録音、スネープ・モールティングズ・コンサート・ホールにて収録、CHANDOS海外盤)


指揮者をおかないアカデミー室内管弦楽団の首席奏者9名による演奏。以前、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」でエントリーしたアルバム「Academy Classics」に収録。本音源は他のアルバムと異なる調で演奏されているせいか、どことなく短調な響きが漂っている。今回取り上げた8枚中、3枚のディスクがCHANDOSの音源となっており、自国レーベルならではの強みが発揮されている。

■イ・サロニスティ
 (1988年9月録音、スイスにて収録、デッカ国内盤)


以前、「ディズニーメドレー」でもエントリーしたイ・サロニスティによるもの。ヴァイオリン・ソロはカメラータ・ベルンの指揮者でもあるトーマス・フューリ。サロン中心の曲を得意としている事に加え、気心の知れたメンバーでもあるのだろう、実にアットホームで愛らしい演奏で、室内楽版の中では最もお気に入りとなっている。

■アコースティック・カフェ
 (FLME国内盤)


以前、ライブ公演でエントリーした事のあるピアニストの中村由利子を中心とするアンサンブル団体のアコースティック・カフェによるもの。ヴァイオリン(都留教博)とチェロ(前田善彦)が加わった三重奏である点がユニーク。ヴァイオリンによる主旋律がくっきりと出た濃厚な「愛の挨拶」だが、チェロによる対旋律が潤滑油の役割を果たしていて心地よい。まさしくどこかのカフェで聴きたくなるような演奏だ。

【ピアノ】
■マリア・ガーゾン
 (1998年12月録音、St Peter's Churchにて収録、ASV海外盤)


最後にピアノ版を。これまで様々な編成で聴いてきたが、改めてピアノだけで聴いても、しみじみと名曲だなあと思える演奏。マリア・ガーゾンはスペイン出身のピアニスト。全体としてゆったりとしたテンポでヒーリング的な味わいもある。シンプルに聴きたい時はそんなピアノ版がぴったりといえるだろう。