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ピアノが奏でる名旋律の隠れた名曲として、「ワルソー・コンチェルト」を。この曲は「ワルシャワ協奏曲」とも呼ばれた知る人ぞ知る名曲だが、元はクラシック曲ではなく、映画音楽。英国の作曲家リチャード・アディンセル(1904-1977)が、1933年にハリウッドに進出、1941年に公開された「危険な月光」という映画音楽として手がけた曲で、亡命先のイギリス空軍に参加したポーランド人ピアニストの主人公が、故国を想い、弾いたシーンで使われたピアノ曲だという。コンチェルトとはなっているものの、実際は単一楽章の10分弱の小品。戦時中の飛行機を巡る映画映画というと、本ブログでも過去にエントリーしたウォルトンの「スピット・ファイア」(1942年作)を思い出すが、このワルソー・コンチェルトにはスピット・ファイアのような派手さはなく、主人公の心情が表れた実にロマンティックな曲で、作曲にあたり、アディンセルがオーダーされたといラフマニノフ風の旋律が印象に残る。ゆえに、ラフマニノフ好きにはたまらない小品だ。こだクラから3枚のディスクを聴き比べしたい。

■フックト・オン・クラシックス盤(ジャケット画像上)
  ルイス・クラーク指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
  1980年頃録音、アビーロードスタジオ他にて収録、JIMCO RECORD国内盤)


自分にとって、この曲を知るきっかけとなったのが、アルバム「フックト・オン・クラシックス」だった。数々のクラシックの名曲をドラムのビートに乗せてメドレー風に演奏された1981年発売の世界的大ヒットアルバムだが、この中の「フックト・オン・ロマンス パート2」に、アディンセルの「ワルソー・コンチェルト」がさび部分が効果的に使われている。この「フックト・オン・クラシックス」は今から約30年前の小学生(1985年)の頃、当時、吹奏楽部の友人から借りたカセットテープを聴いて大いに感動したものだ。その後クラシックに本格的に開眼するきっかけとなっただけに、今でも重宝しているあるアルバム。フックト・オン・クラシックスのアレンジャーで指揮者でもあるルイス・クラークの卓越した手腕とロイヤル・フィルとの見事な演奏は今聴いてもワクワクする。

■ミッシャ・ディヒター盤(ジャケット画像右下)
 ネヴィル・マリナー指揮 フィルハーモニア管弦楽団
 (1983年7月録音、ロンドンにて収録、フィリップス海外盤)


ピアニストのミッシャ・ディヒターは、1966年にチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で準優勝したアメリカのピアニスト。ダイナミックな冒頭部分はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番ばりの強靭なタッチ、一方の主旋律部分はラフマニノフのような情感さあり、シーン毎のめりはりがあってよい。テンポ運びの心地よさは、バロックから交響曲まで様々なジャンルに精通した指揮者マリナーの万全なサポートがあってのものだろう。なお、本ディスクは、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」とのカップリングとなっており、どちらも興味深い。

■クリスティーナ・オルティス盤(ジャケット画像左下)
 モーシェ・アツモン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
 (1984年9月録音、ウォルサムストウ・アセンブリーホールにて収録、デッカ国内盤)


ミッシャ・ディヒター盤から約1年後の録音となる音源。以前、「幻想即興曲」でもエントリーしたことのあるクリスティーナ・オルティスはブラジル出身の女流ピアニスト。1969年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで第1位を獲得という、ミッシャ・ディヒターと並ぶキャリアを築いている。日本にも過去来日歴のある、知る人ぞ知るピアニストだ。
オルティス盤はディヒター盤と比べるとややゆったりなテンポで、おとなしく印象を受けなくもないが、情熱的なオルティスのタッチと、それを支える芳醇なストリングスの響きがよい。伴奏はロイヤル・フィルなので、フックト・オン・クラシックスの本家オケとの共演ともいえる。カップリングがラフマニノフのピアノ協奏曲第2番というのも、この曲にぴったりなカップリングといえるだろう。

上記の音源が1983年と1984年にフィリップスとデッカの名門レーベルによってそれぞれ録音された背景には、1981年発売のフックト・オン・クラシックスがきっかけとなって火が付いたのかもしれない。いずれにしても、もっとたくさんの人に知られてよい名曲だ。