先日のサンクトペテル・フィルの実演に接して以降、ラフマニノフを聴いてコンサートの余韻に浸っている。曲は「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」。晩秋とも相まって、この季節、特に聴きたくなるようだ。既に、この曲に関しては、スティーヴン・ハフ(b.1961)や、ボリス・ベレゾフスキー(b.1969)の演奏をエントリーしてきたが、今回は、4人の異なるピアニストと指揮者で、オケのみ同一のロンドン交響楽団の音源という、ユニークな試みで聴き比べをしてみた。いずれも名演揃いだが、ピアニストと指揮者の組み合わせによって、どのように印象が変わってくるかも興味のある所だ。4枚のディスク中、3枚が1988~1989年の2年間にレコーディングされている辺り、ロンドン響とラフマニノフの相性の良さも窺わせる。指揮者陣はウィン・モリス以外はロシア系出身というのも興味深い所。録音順に感想を綴ってみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
○タマーシュ・ヴァシャーリ(ピアノ)
ユーリ・アーロノヴィチ指揮 ロンドン交響楽団
(1975年9月録音、ワトフォード・タウンホールにて収録、ドイツ・グラモフォン海外盤)
以前も、エントリーした演奏。今回、4つの音源と聴き比べた上で、改めてマイベスト盤となった。ヴァシャーリのピアノも素晴らしいが、聴き所を押さえ、オケから美音を隈なく引き出しているアーロノヴィチ(1932-2002)の指揮がやはり素晴らしい。ラフマニノフの情感を余すことなく表現しており、特に3楽章のエンディング部分は何度聴いても熱くなってしまうものがある。
録音も実に優秀。1970年代のアナログ全盛期ながら、グラモフォンによるオリジナル・イメージ・ビット・プロセッシングによるリマスターが活きており、臨場感のある収録で広くお勧めできる名演だ。
○デビッド・ゴラブ(ピアノ)
ウィン・モリス指揮 ロンドン交響楽団
(1988年1月録音、ワトフォード・タウンホールにて収録、Carlton Classics海外盤)
ゴラブ(1950-2000)は米国出身で、自分にとっては、この音源を通じて初めてその名を知ったピアニスト。一方の指揮者のウィン・モリス(1929-2010)は過去にエントリーしている。4つの音源の中では早めのテンポで繰り広げられた、ステージ感のある演奏。もし、実演に接する事ができたら、充分に名演に値する演奏だと思う。指揮者のウィン・モリスもロンドン響をしっかり手中に収めている。
○ジョン・オグドン(ピアノ)
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 ロンドン交響楽団
(1988年11月録音、アビー・ロード・スタジオにて収録、Collins Classics海外盤)
オグドン(1937-1989)は英国出身のピアニスト。1962年のチャイコフスキー国際コンクールで、同い年のヴラディーミル・アシュケナージと優勝を分け合い一躍有名となったが、1989年に52歳という若さで急死した事が悔やまれる。ここでは、ロシア音楽の第一人者であるゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(b.1931)という心強い味方を得た事が何よりの強みとなっている。
感傷的にならない演奏で、スティーヴン・ハフ盤と同じ志向性を感じる。意外とあっさりとしており、淡々としたラフマニノフだが、この辺りは、聴き手がこの曲に求めるものによって好みが好みが分かれてくる所だろう。
個人的にロジェストヴェンスキーの個性を感じたのが、終楽章のエンディング部分。他の3つの音源には聴こえなかったホルン・パートの咆哮が聴こえてくる。収録会場の影響だろうか、録音がデッドで広がりに欠けるのが惜しい。
○アレクセイ・スルタノフ(ピアノ)
マキシム・ショスタコーヴィチ指揮 ロンドン交響楽団
(1989年11年録音、ザ・モールティングズ、オールドバラにて収録、TELDEC海外盤))
ピアニスト、指揮者ともにロシア系のアーティストによる共演。スルタノフ盤は以前にエントリーしているので詳細はそちらに譲りたい。1楽章冒頭の導入部の連打は4つの音源中、最も遅く、沈欝な響きを感じさせるし、終楽章の安定感ある弾きっぷりは、録音当時、まだ20才とはとても思えない落ち着きぶり。劇的ではないものの、精神性の高い演奏。