先日ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチの映画を見て感銘を受けて以来、改めて指揮者ロストロポーヴィッチとしての一面を垣間見るアルバムを聴いてみる。ロストロポーヴィッチがベルリン・フィルを指揮したチャイコフスキーの3大バレエ組曲を('78年6月録音、フィルハーモニー、ベルリンにて収録、グラモフォン輸入盤)。3大バレエ組曲には多くの名盤が存在するが、ロストロポーヴィッチ盤はタクトに込めた祖国ロシアへの思いをベルリン・フィルが見事に応え、情熱的な演奏に仕上がっている点でマイベスト盤の一つになっている。
曲目は以下の通り。
バレエ組曲「白鳥の湖」作品20
①情景(第2幕)
②ワルツ(第1幕)
③4羽の白鳥の踊り(第2幕)
④情景: パ・ダクシオン(第2幕)
⑤ハンガリーの踊り(チャルダーシュ)(第3幕)
⑥情景: 終曲(第4幕)
バレエ組曲「眠りの森の美女」作品66
①序奏とリラの精(プロローグ)
②アダージョ: パ・ダクシオン
③パ・ド・カラクテール: 長ぐつをはいた猫と白い猫(第3幕)
④パノラマ(第2幕)
⑤ワルツ(第1幕)
バレエ組曲≪くるみ割り人形≫作品71a
①小序曲
②行進曲
③こんぺい糖の踊り
④ロシアの踊り(トレパーク)
⑤アラビアの踊り
⑥中国の踊り
⑦あし笛の踊り
⑧花のワルツ
ドイツの伝統ある響きという以上に、帝王カラヤン時代の黄金期のサウンドを感じさせる演奏。やっぱりベルリン・フィルは巧いなあと今更ながら実感。
しかしながら、カラヤンでは表現しきれないチャイコフスキー像をロストロポーヴィッチは一歩奥に踏み込んで表現する事に成功しているように思える。
「白鳥の湖」の⑤「ハンガリーの踊り」での後半部の突進する重戦車のような盛り上がりや、「眠りの森の美女」の④「パノラマ(第2幕)」でのポルタメントのかかったストリングスセクションの弱音の美しさ、「くるみ割り人形」の一大スペクタクルな⑧「花のワルツ」等、聴き所が盛り沢山だ。
この3大バレエはトランペットやホルン等の金管セクションが大活躍するが、'70年代のベルリン・フィル金管セクションの輝かしい厚みのある響きが感動モノ。
'74年に指揮者としても活動をスタートさせたロストロポーヴィッチは'76年に当時ロンドン・フィルとチャイコフスキー交響曲全集を既に録音させており、指揮者としてこのチャイコフスキー作品は交響曲全集の次の録音にあたっている(ちなみにベルリン・フィルとはこの3大バレエ曲集の他に「イタリア奇想曲」と彼自身がチェロで加わった「アンダンテ・カンタービレ」を録音)。
指揮者としてはまだキャリアの浅かったロストロポーヴィッチとベルリン・フィルの接点はどこにあったのかという素朴な疑問がわいてくるが、'68年にカラヤン&ベルリン・フィルとはドボルザークのチェロ協奏曲の録音も残しており、チェリストとしての共演歴から、ベルリン・フィルを指揮する機会も生まれたのだろう。ロシア出身の指揮者によるロシアン・アルバムというグラモフォン側の狙いもあったに違いない。
ロストロポーヴィッチ指揮のチャイコフスキーといえど、ガッカリさせられたアルバムもある。当時音楽監督のポストにあったワシントン・ナショナル響の演奏でピアノ協奏曲第1番のディスクを聴いた時、冒頭のホルンの浅い響きと平面的なオケの伴奏には期待を裏切られたものだった。
これはオケの問題なのか?指揮者の問題なのか?
晩年は、名門ロンドン響とのショスタコの交響曲5・8・11番をライブ録音(LSO自主レーベル盤)して凄演を聴かせている事からすれば、この問題は前者であると個人的には思う。すなわち指揮者の思いをどこまで具現化できるかはオケの機能に拠る部分も大きいという事だ。
ちなみにThe Originalsシリーズの臨場感あふれるリマスターの優秀さも特筆しておきたい。
<参照マイブログ>
一大スペクタクルな「くるみ割り人形」~ロジェストヴェンスキーのチャイコフスキー~