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イェルク・デームス。デームスといえばパウル・バドゥラ・スコダ、フリードリヒ・グルダと共に「ウィーンの三羽烏」と言われた今年79歳になる巨匠ピアニスト。彼の演奏を一度聴いておきたい、と会社帰りに行ってきた。東京文化会館小ホールは6月に聴いた藤井隆史&白水芳枝ピアノデュオリサイタル以来だ。既に亡くなったグルダの演奏はフランス・モンペリエでのライブ録音等、CDでしか接していないが、スコダは3年前の6月29日、東京芸術劇場大ホールでの来日公演を聴いている。オーストリア出身だけに、ベーゼンドルファーを使用したベートーヴェンの演奏が印象に残っている。

今回は若手フルーティストの瀬尾和紀氏、ヴァイオリンの原田 陽氏の二人を中心に結成された14人のメンバーからなる「ザ・ウェルテンパードオーケストラ」の第1回の記念となる定期演奏会に、イェルク・デームスが特別ゲストとして出演。瀬尾氏・原田氏の両氏が共にイェルク・デームスと演奏や録音での交流があった事から実現したもの。瀬尾氏はデームスとのナクソスへの録音もある。

瀬尾氏がリーダーのような形で指揮も担当。フルーティストが指揮を兼務する姿を見るのは自分にとっては初めてで興味深い。
プラグラムは以下の通り。

①管弦楽組曲第2番
②ヴァイオリン協奏曲第2番 ロ短調
③クラヴィーア協奏曲第1番 ニ短調
④ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調


②は9月にジノ・フランチェスカッティのCDを取り上げたばかりでもあり、いずれもバッハの好きな曲ばかりで自分にとっては好プログラミング。CDではいつも楽しんでいる曲とはいえ、生で聴くのは初めて。チェンバロを含む小編成での室内楽も昨年の12月以来で久しぶりだった。

改めて室内楽的な響きっていいなあと思う演奏。①の瀬尾氏のフルートも②の原田氏のヴァイオリンも落ち着いた風格ある音色でソロ自体には問題はないのだが、オケのテンポには今一つ乗れない感がした。
休憩を挟み後半③④でいよいよデームス登場。デームスのピアノが加わった事でサウンドに落ち着きが生まれた。デームスのピアノは一際目立つこともなく、常に安定が感じられる音だ。何より巨匠と呼ばれるピアニストが若手と共に演奏する光景が微笑ましい。デームスの出演はデビューコンサートの祝賀という意味合いだけでなく、ドイツ音楽の良き伝統を次世代の若い演奏者と若い聴衆に伝えていくためにも、大きな意味があったように感じた。

バッハ作品の若手奏者による演奏といえば、こちらも以前エントリーしたロンドン・コンコルド・アンサンブルの録音を思い浮かべる。このアルバムでも①④が収録されており、比較の意味でも興味深いが、彼らのような有機的なハーモニーまでは至っていない気がした。
しかしながらまだ活動をスタートしたばかりのオケであり、団体名である「ウェルテンパード=Well-Tempered=よく調和された」の理想的なハーモニーの追求を今後期待したい。