シカゴ響の鉄壁ブラス軍団の伝説的奏者、アドルフ・ハーセスを取り上げたからには、この人も取り上げないわけにはいかない(^^)
デイル・クレヴェンジャー。1966年以来、シカゴ響の首席を務める名ホルン奏者。
トランペット協奏曲の代名詞がハイドンなら、ホルン協奏曲でまず筆頭にあがるのは、モーツァルトのホルン協奏曲といっていいだろう。古今東西、様々なホルン奏者によって演奏されているだけに名盤も多く、既にバリー・タックウェルによる名盤も昨年エントリーしている。自分自身、小学校時代、市販のクラシック名曲アルバム(1985~86年頃だったから、当時まだカセットテープでよく聴いていた)で慣れ親しんでいたのはモーツァルトのホルン協奏曲第1番だった。
そんなモーツァルトのホルン協奏曲(中でも有名な第3番)を、クレヴェンジャーには1980年代に2度、セッション録音を残している。
初回の録音は1984年、先日エントリーしたハーセスら4人の首席奏者の協奏曲のカップリング。3年後の1987年に録音した2回目は1~4番に加え、未完の2曲を加えたホルンづくしなアルバムとなっている。比較して聴いてみると様々な違いが味わえて興味深い。(ジャケット左:シカゴ響共演盤、右:フランツ・リスト室内管共演盤)
時代順に、まずはシカゴ響との共演盤から。
○クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団
(1984年2月録音、オーケストラホール、シカゴにて収録、グラモフォン輸入盤)
何といっても、共演がホームグランドのシカゴ響との共演であることがまず魅力。メンバーとの息もぴったりな分、のびのびと吹き上げる様子が窺える。後述のフランツ・リスト室内管との共演盤に比べると、筋肉質な演奏で、所々のフレーズ処理にクレヴェンジャーらしいマッシヴな音を聴かせてくれる。もちろん、各々のオケの規模感の差もあるのかもしれないが、3番に関しては、自分がイメージするクレヴェンジャーらしさが出ているという点で個人的にはシカゴ響共演盤が好きだ。
当時のアバドとシカゴ響との相性も良かったのだろう。アバドの導くテンポ感が、心地よい音楽へと誘ってくれる。アバドのセンスも光る演奏。
○フランツ・リスト室内管弦楽団
(1987年8月録音、Vac Franciscan Church、ハンガリーにて収録、ソニー国内盤)
ホルン奏者にとっては、モーツァルトのホルン協奏曲の全4曲をレコーディングするのは一つの念願でもあるのだろう。それをクレヴェンジャーは名門室内楽団の一つ、フランツ・リスト室内管弦楽団との共演によって達成している。
録音レーベルがCBSだったのは、当時、アバド&シカゴ響がチャイコフスキーとの交響曲全曲録音を進めていた関連もあるのだろう。ここではハンガリーの国営レーベル、フンガロトンとの共同作業になっている。この盤は、ホルンのベル(朝顔)とマイクまでの距離感がアバド盤より近めで収録されているので、クレヴェンジャーの素の音をじっくり聴きたい時にはお勧め。
ここで興味深いのは、第1番でクレヴェンジャーがナチュラル・ホルンを使用している点。この協奏曲のみ、チェンバロの通奏低音も加わり、モーツァルトの時代考証に基づいた意欲的な試みが窺える。自然倍音以外の音はホルンのベル(朝顔)の中で手を差し込んで音を調節しなければならない(=ハンド・ストップ奏法)なので、難易度も相当なものだったと思う。
モーツァルトのホルン協奏曲全4曲を聴く中で、今回第2番にも惹かれるものがあった。第3楽章の後半のホルンとストリングスの美しい掛け合いは、この協奏曲集の中での聴き所の一つといえるだろう。
比較鑑賞できる第3番は、アバド盤に比べるとテンポ設定がやや遅め。指揮者を置いていない室内管との共演だから、ある意味当然かもしれない。ハ―セスのハイドンで感じた時と同様、ここでのクレヴェンジャーは、オケで聴く時のような豪快でパワフルな音ではなく、ソロイストに徹したスマートな演奏が聴ける。ソロイスト志向はハ―セス以上に強く感じる。実際、数多くの室内オケとの共演や大学での指導、また指揮者としても活躍するなど、活動のフィールドは広いようだ。1990年代のアルバムの中に、バレンボイムらと残したデューク・エリントンとのJAZZアルバムがあるのも興味深い。