「マタイ受難曲」、「ロ短調ミサ」と並ぶバッハの3大宗教曲の一つ、「ヨハネ受難曲」に、社会人のアマチュア合唱団に入ってチャレンジすることになった。
きっかけは、大学時代の同期の友人からの紹介。同期の職場の先輩が、そのアマチュア合唱団で歌っており、知り合いで合唱経験者を探していたことから誘いを受けた。
社会人になってからの音楽活動といえば、社会人一年目の秋に、高校時代のOB吹奏楽団に出演して以来のこと。まして合唱は大学時代以来だから、実に12年ぶりとなる。気軽な気持ちで夏休み前に見学に行ったが、初回ながら楽譜を手に歌わせてもらうことができ、久々に合唱の楽しさがよみがえってきた。
バッハの声楽曲は、もちろんドイツ語。ドイツ語ならではの発音の難しさだけでなく、受難曲という曲の性格上、内容面においても難易度の高い曲だが、ミサ曲は大学時代のレパートリーの一つでもあったので、宗教曲の雰囲気にはすぐにとけこめた。
振り返ってみれば、昨年は実演で合唱を聴く機会の多い年でもあった。2月に北村協一先生の追悼演奏会、5月にミシェル・コルボ指揮によるフォーレのレクイエム、10月に鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンのバッハロ短調ミサと、偶然ではあるが、今回の合唱団入団につながるきっかけができていたような気がする(^^)
クラシックを聴き始めて約20年以上の時が経ちながらも、「ヨハネ受難曲」はこれまで一度も聴いたことがなかった。見学前日に慌ててクイケン&ラ・プティット・バンドのディスクを購入して少し予習をする(^^; その日の練習曲は第27曲bの「Lasset uns den nichit zerteilen(これは裂くな)」だったが、実に雄弁にみち、その躍動感はヘンデルの「メサイア」を歌う感覚と似ていた。それまでは受難曲というだけで、暗い曲調を想起していたが(もちろん、そういうシーンもあるが)、それは自分の勝手な先入観に過ぎなかった。
1724年に初演されているこの曲は、既に280年以上の時を経ているが、現代においても全然古臭さを感じない。時代を超えて愛される作曲家が生み出した作品というのは、やはりすごいと思う。
合唱の醍醐味は、やはり皆でハモる事の楽しさ。4つのパート(ソプラノ・アルト・テノール・バス)が、一人一人、違う声で重なり合って、一つのハーモニーを作り出す。人の声は、その人だけが持つ、それぞれ固有の楽器といえるだろう。
音楽の基本は歌うことにあること、だとすれば、合唱は音楽を体で習得するよいトレーニングにもなる。何より、腹式呼吸を使うので、週一回の練習が、ちょっとした基礎体力の場にもなる。
その先輩は、このアマチュア合唱団で合唱を始めたというが、まだ合唱歴が2年程度と浅いながらも、天性のベースボイスを既に発揮されていた。男声合唱と違い、混声合唱の男声パートは2声しかないので、自分は必然的にバスパートに。バリトンとバスを一つのパートでこなす事になるわけで、従来の2パート分をこれからの練習で鍛えなくては、と思う。
有難かったのは、ベートーヴェンの第9に見られるようなパート別のCDが存在すること。これがあるだけで、音取りはもちろん、発音練習も楽になるので非常に心強いツールになる。早速i-podの必須収録曲にもなった(^^) そのせいか、最近は他の合唱曲もよく聴くようになってきた。 合唱には様々な規模があるが、この合唱団は50人程度の規模だけに、一人一人の発声や発音が重要になってくる。お手本とするクイケン&ラ・プティット・バンドや、昨秋に聴いた鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンは20人以下の人数で歌っていたので、バッハの声楽曲は少人数でも適しているといえる。
来春の本番にはオケや独唱陣との共演が待っている。自分にとってはプロのオケと共演できるという貴重な機会でもある。仕事以外に打ち込める世界を持つことで、オンとオフの区切りがつけられ、新たな目標も持てる。バッハの世界も、身近に感じられそうだ(^^)
3回目の練習日に楽譜を購入。270ページに及ぶベーレンライター版の楽譜はずしっと重みを感じると同時に、合唱への新たな意欲がわいてくる。友人が与えてくれたこのチャンスを大事に、本番に向けて合唱を、音楽を楽しんでいきたい。