最近、久石譲氏が新日本フィルハーモニー交響楽団の Composer in Residence and Music Partnerに就任するというニュースを知った。新日本フィルに楽曲を提供したり、演奏会での共演、 新日本フィルの50周年記念定期公演(2021年9月~2023年3月)等において、アドヴァイスや提案、協力を行っていくとのことで、両者の良好な関係ぶりを窺わせる。本ブログでも過去に、久石譲&新日本フィル盤によるミシェル・ルグランの名曲「キャラバンの到着」をエントリーしているが、自分の中で久石譲&新日本フィルといえば、指揮者としての久石氏ではなく、中学生時代に出会った交響組曲「アリオン」の作曲者としての印象が大きく残っている。
「アリオン」は1986年3月に公開されたアニメーターの安彦良和氏の初監督による劇場アニメ化作品。安彦良和氏の名前は知らなくても、「機動戦士ガンダム」の作画監督を務めていた人といえば、馴染みがあるだろう。1986年は「天空の城ラピュタ」も8月に公開されており、同年の作品となる。1984年公開の「風の谷のナウシカ」をはじめ、宮崎駿作品が次々と世に送り出されていた時期にあたる。「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」に比べれば、あまり知られていない作品だと思うが、当時中学生だった頃にレンタル店でその音楽に接した頃から印象に残っており、最近CD盤を手に入れて再度じっくり聴き返すことができた。収録曲は以下の通り。
■交響組曲「アリオン」
1.第一章
2.第二章
3.第三章
4.第四章〈レスフィーナの唄〉
5.第五章
6.第六章
中谷勝昭指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
(アバコクリエイティブスタジオにて収録、徳間ジャパン国内盤)
久石メロディの原石が詰まっているような作品で、新日本フィルも見事な演奏で応えている。
交響組曲は全6章構成。第一章はドラマティックな展開で、冒頭のイントロ、リズムの作り方はどこかミニマルミュージック的。中間部のオーボエ・ソロが美しい。そして、個人的に最も気に入っているのが第二章。フルートとファゴット、マリンバによって奏でられる民族音楽的な旋律がユニークで、躍動するリズムも印象的。それはどこか、ジョン・ウィリアムズの「イウォーク族のパレード」的な雰囲気も感じられる。一方、中間部でフルートのソロからストリングスに受け継がれる哀愁漂う旋律も素晴らしく、どこか「ラン、ランララ、ランランラン」のフレーズで歌われる「風の谷のナウシカ」の劇中歌「ナウシカ・レクイエム」のようにも聞こえる。
第三章はブラスセクションの使い方がどこかブルックナーの交響曲のようだし、第四章<レスフィーナの唄>は本作品の一つの白眉となる楽章で、ここでのピアノの旋律はまさに久石節で本人によるピアノ演奏が聴ける。また、ショスタコーヴィチ風の戦慄的な雰囲気が漂う第五章、中間部での安堵感のあるトランペットソロと壮大なスケールによって締めくくられるラストの第六章も良い。
全体を通してオーケストラが実にシンフォニックに鳴っており、約35年近く経過した今聴いても新鮮に聴ける。指揮者の中谷勝昭氏についてのプロフィール詳細は把握していないが、同時期にリリースされた「天空の城ラピュタ シンフォニー編 大樹」では東京シティ・フィルのタクトを取っていたり、アニメ「聖闘士星矢」や、「銀河鉄道999」のアルバムでも名前が見られるので、劇伴音楽における指揮の第一人者だったようだ。特に「聖闘士星矢」では以前エントリーした交響組曲「超人機メタルダー」でタクトを取った熊谷弘氏の名前も見られる。交響組曲「超人機メタルダー」、交響組曲「アリオン」共に演奏は新日本フィルハーモニー交響楽団。今になって思うのは、彼らの劇伴音楽への貢献は、オーケストラ作品、しいてはクラシックへの接点拡大にも大きく寄与したのではないか、という点。久石氏自身、作曲活動と並行しながら、ピアニストとしての出演もその後増え、今やクラシックの世界で精力的に活躍する指揮者となっている。
そんな中、このアリオンは自分にとって久石譲氏の音楽に惹かれるきっかけとなった貴重なアルバム。思い出のシンフォニック・アルバムとしてこれからも愛聴していきたい。