新規購入したQUADスピーカーのエージングを意識しながらここ数日、ディスク選びをするようになった。今宵のエージングにはアコースティック楽器の代名詞ともいえるピアノ曲を。
「調子のよい鍛冶屋」(英表記 Harmonious Blackasmith)として愛されているヘンデルの人気曲の一つ、「クラヴィーア組曲第5番ホ長調」より「第4曲」を、お気に入りのピアニスト、ラローチャ、ケフェレック、ぺライアの3人の演奏カラーで味わってみたい。
①アリシア・デ・ラローチャ盤(画像上:左)
(1986年1月録音、ヘンリー・ウッド・ホールにて収録、DECCA輸入盤)
自分にとってのスタンダード盤ともいうべき演奏。3人のピアニストの中で最も腰を据えた落ち着きを感じる安定度の高い演奏。「MOSTLY MOZART」とタイトルの付いたアルバムの一曲目に収められている。その後にモーツァルトの「幻想曲ハ短調 K475」、「ソナタハ長調 K457」、バッハ(ブゾーニ編曲)の「シャコンヌ」と続く位置づけを考えると、彼女のリサイタルを聴いてるかのようなプログラミングだ。
DECCAならでのハイクオリティな録音技術が、彼女の演奏を余す事なく伝えてくれているのも嬉しい。ピアノの音像が3枚の中で最も鮮明に感じるのは、DECCAではお馴染みのエンジニア、サイモン・イードンの手腕に拠る所も大きいのだろう。
彼女の日本でのラスト公演を聴けなかったのがつくづく残念だ。
②アンヌ・ケフェレック盤(画像上:右)
(2005年11月録音、MIRARE輸入盤)
ここ数年、「熱狂の日」で往年の名演を聴かせてくれているピアニスト。
演奏はチェンバロの如き、実に軽やかな演奏。装飾のきかせ方も巧く、聴いていて心地よい。
全曲ヘンデル作品で構成されているこだわりにも共感が持てる。ラヴェル等、フランスものも得意な彼女だが、古楽器奏法やバロック期の演奏解釈にも造詣が深いのだろう。そういえば、彼女のスカルラッティも名演奏を繰り広げている名盤で、マイベスト盤の一枚となっている。
録音も2005年の最新のものだけあって、今回の3枚の中では最も鮮度が高い。
MIRAREレーベルは先日のベレゾフスキーのディスクでもエントリーした、熱狂の日のアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタン主宰のレーベルだが、高品位録音への要求度もきっと高いに違いない。
デジパック仕様のジャケットに写るケフェレックの姿も実におしゃれでハイセンスだ。
来年の「熱狂の日」でも来日する事があれば是非生で聴いてみたい。
③マレイ・ペライア盤(画像下)
(1996年10~11月、ドイツにて収録、ソニー・クラシカル国内盤)
第1・2変奏はラローチャ、ケフェレックと同様のテンポで進むものの、 第3変奏から火がついたようにスパートがかかり、一気に駆け抜ける爽快な演奏。3人中、最も早い演奏タイムとなっている。ちなみにこの第4曲の各ピアニストのタイムは以下の通り。
ラローチャ:4分31秒
ケフェレック:4分03秒
ぺライア:3分33秒
なんとラローチャとの差は約1分!指の故障で一時期活動を休止していたとは思えない指の回り方だ。テクニカル面は、開いた口がふさがらない程、完璧な演奏。
もちろん、テクニカル面だけでなく、楽曲へのアプローチにはピアニストとして作曲家の核心に迫ろうとする真摯な姿勢がこのディスクからも感じられ、共感が持てる。
確かペライアも数年前に来日予定だったが、急遽公演がキャンセルになったと記憶している。
ケフェレック、ペライアのような現役のピアニストの演奏をいつかライブで聴いてみたい。