ジェラルド・フィンジ(1901-1956)の名曲「弦楽のためのロマンス」に続き、後編として、もう一つ取り上げておきたい作品がある。それは「ヴァイオリン協奏曲」。「弦楽のためのロマンス」と共に、フィンジの作品に出会ったきっかけは、今は亡き英国の名指揮者、リチャード・ヒコックス(1948-2008)の記念アルバム(ジャケット画像上)にこの曲の2楽章が収録されていたことだった。30曲近く収録されていた中で、はっと心をつかまれたのがこの曲だった。旋律の美しさが際立つ一方、どこかセンチメンタルな一面も併せ持っている。音楽を奏でる、というよりは、音楽が漂う、とでもいうべき楽曲で、聴いていると、肩にたまっていた力が、すっと抜けるような、癒しにも満ちている。(You Tubeでも聴くことができる)
この記念アルバムに収録されていたのは全3楽章の内、第2楽章のみのダイジェストだったため、第1楽章・第3楽章が収録された完全版の存在が気になったのも無理はない。後年買い求めたアルバムは以下の通り。
■フィンジ:ヴァイオリン協奏曲(全3楽章の完全版) *ジャケット画像右下
リチャード・ヒコックス指揮 シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
ヴァイオリン:タスミン・リトル
(1999年12月、ワトフォード・コロッセウム CHANDOS海外盤)
この曲は1927年にマルコム・サージェントによって初演され、翌年の1928年にはヴォーン・ウィリアムズによって再演されるも、フィンジ自身が、第1楽章の出来に満足しなかった為に、それ以降封印されていたという。ヒコックス盤が登場するまでの約70年もの間、全3楽章による完全版の音源は存在しなかったために、世界初録音となった本盤の価値は大変高く、英国作曲家の楽曲を世に発信してきたCHANDOSレーベルの意義も大きい。
タイトルは「Concert for small orchestra and solo violin」で直訳すると「小編成のオーケストラとソロ・ヴァイオリンの為の協奏曲」というべきか。第1楽章、第3楽章を含めて改めて聴くと、20代中頃の作曲とは思えないほど完成度が高い作品だったことを実感する。第1楽章の「アレグロ」から既にフィンジならではの優美さが感じられるし、第3楽章の「ホーンパイプ・ロンド」では一転して躍動的で開放的な明るさがある。しかしながら最大の聴きどころはやはり2楽章で、悠久の時が流れるような雰囲気に包まれる。
素晴らしいソロを奏でるのはタスミン・リトル(b.1965)というロンドン出身の女流ヴァイオリニスト。CHANDOSレーベルでは常連のアーティストのようだが、彼女のフレージングと音色はフィンジ作品にぴったりとくる。ヴァイオリン協奏曲というと、技巧的なテクニック志向の曲を思い浮かべるが、フィンジのヴァイオリン協奏曲は、また異なる才能が求められるように思う。
■フィンジ:ヴァイオリン協奏曲~第2楽章 *ジャケット画像左下
サー・エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリン:ロドニー・フレンド
((1977~78年頃録音、Lyrita海外盤)
ヒコックス盤に続き、サー・エイドリアン・ボールト指揮による第2楽章の音源の存在も最近知った。「弦楽のためのロマンス」と同様のアルバムに収録されており、1970年代に録音された貴重な音源。興味深いのは曲タイトルで、当時は全3楽章の協奏曲形式ではなかった為、「Introit for small orchestra and solo violin」と記載されている。ヴァイオリン・ソロを担当するのは当時のロンドン・フィルのコンサートマスターだったロドニー・フレンド(b.1939)。単独曲としてこちらも素晴らしい出来だが、演奏・録音、そして何より完全版である点でヒコックス盤の存在が際立っている。
「弦楽のためのロマンス」と同様、いつの日か日本でもこのフィンジの「ヴァイオリン協奏曲」がコンサートで演奏される日を待ち望みたい。
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