最近、若手ピアニストによるベートーヴェン「熱情」ソナタの演奏を聴いた事がきっかけで、自分の中で「熱情」のマイブームが沸き起こっている(^^;これまで、ベートーヴェンのコンチェルトにはピアノ協奏曲第4番やピアノ協奏曲第5番「皇帝」を始め、オケとの掛け合いもあって、親近感を抱いていたが、ピアノ・ソナタには、まだ心理的な距離を感じていた。しかし、生演奏をきっかけに、自分の中でこだわりの「熱情」を見つけたい、と思う気持ちになった。交響曲第5番「運命」と同時期に作曲が進行した曲だけあって、まさに「熱情」というタイトルにふさわしい(「運命」と同様、ベートーヴェン自身が命名したタイトルではないが)魂の結晶のようなベートーヴェンの情熱を感じる曲だ。
今宵はそんな「熱情」にふさわしい、現役のドイツ2大ピアニスト、ペーター・レーゼルとゲルハルト・オピッツが最も油の乗り切った30代に録音した、こだわりの録音を。
○ペーター・レーゼル盤
('80年1月録音、ルカ教会、ドレスデンにて収録、
ドイツ・シャルプラッテン国内盤)
レーゼル('45年2月2日ドレスデン生)39歳の録音。
ベートーヴェンの意志の強さを見事に体現した演奏。
1楽章から一転の曇りもなく、堂々としたもの。有名な運命の動機が奏でられた後、ベートーヴェンの内なる情熱が溢れて出てくるのがレーゼルの演奏から感じられる。ベートーヴェン自身が聴いたらきっと感激するに違いない。
2楽章はアンダンテながらも、淡々と突き進む。緊張感が漂い、落ち着く暇はない。
そして終楽章。何度聴いてもレーゼル盤には圧倒されてしまう。特に終結部の強靭なタッチの迫力は凄いというに尽きる。この強靭さはモスクワ留学の影響もあるのだろうか。ドイツとロシアのピアニズムが見事に融合した、とでもいうべきだろうか。とはいってもテクニックや感情面だけに傾いた演奏になっているのではなく、理性と感情の調和が保たれた演奏となっている。4月に聴いた、紀尾井ホールでの感動がまた蘇ってくるようだ。
収録は旧東ドイツにおいて数々の名録音を世に送り出してきたドレスデン、ルカ教会でのもの。ややオンマイク気味ながらも、残響成分も聞き取れるアナログ期の名録音。
○ゲルハルト・オピッツ盤
('89年1月録音、ミュンヘンにて収録、ドイツ・グラモフォン輸入盤)
オピッツ35歳('53年2月5日フラウエンアウ生)の録音。
オーソドックスな演奏。巨匠ヴィルヘルム・ケンプの教えを受けていたあたり、いわゆるドイツ・ピアニズムの正当派の解釈といえる演奏なのだろう。
2楽章のアンダンテはレーゼル盤が5分41秒で駆け抜けているのに対し、オピッツ盤は7分6秒とたっぷりと歌わせている。3楽章のアレグロ・マ・ノン・トッポとの明確な対比と上でも、個人的にはオピッツ盤に好印象を受ける。
ペーター・レーゼルの後に聴いてしまったせいか、タッチの迫力はレーゼルには及ばない。改めてレーゼルが強靭なタッチである事を伺わせる。
録音はさすがメジャーなドイツ・グラモフォンだけあって、弱音から強音までのダイナミクス、間接音もブレンドされて美しい。デジタル録音の特長がよく出た収録となっている。
ちなみにレーゼルのジャケット画像は顔写真のある、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のものを拝借した。・・・ん、オピッツと腕の組み方がそっくり。これもドイツ流?(^^)