画像

ここ最近、耳を捉えて離さない曲がある。吹奏楽の人気作曲家の一人、ヤン・ヴァンデルロースト(ベルギー出身、b.1956)の「カンタベリー・コラール」という曲。きっかけは、友人が出演した演奏会でこの曲の実演に接し、とても感銘を受けたというある方からのメッセージ。そういえば、ヴァンデルロースト自身が指揮者として大阪市音楽団を振ったCDを持っていたのを思い出し、どんな曲だったか、久しぶりにディスクを取り出して聴いてみた。結果は上記の通り、今ではipodでも毎日聴いているほどのリピート率の高い曲に。一日の疲れを癒すにも、最良の曲となっている。

○ヤン・ヴァンデルロースト指揮 大阪市音楽団
 (2002年6月13日録音、ザ・シンフォニーホールにて収録、FONTEC国内盤)


2002年に客演指揮者として招かれた際の定期演奏会でのライヴ録音。このアルバムに収録されている7曲全てがヴァンデルローストの作品となっており、オープニングの拍手のシーンまでが別トラックで扱われている(!)というヴァンデルローストファンにはぴったりなディスクとなっている。「カンタベリー・コラール」は5曲目に収録。ヴァンデルローストは交響詩「スパルタクス」(1988年作)で一躍名を馳せた作曲家でもあったから、メイン曲の前に、敢えて荘厳なこの曲を演奏する狙いもあったのだろう。(ちなみに7曲目はアンコールでコンサートマーチ「アルセナール」が収録)

その「カンタベリー・コラール」のオリジナルはブラスバンド曲として1990年に作曲されており、その後1993年に吹奏楽版が出版されている。ヴァンデルローストがイングランド南東部、ケント州にある英国国教会のカンタベリー大聖堂を訪れた際にインスピレーションを得て作られた曲だというが、この作品を聴くと、その時の感動が音楽を通じて伝わってくる。

オーボエによって静かに旋律が歌い出される冒頭から、既に敬虔な気持ちにさせられる。その旋律が何度か繰り返されるが、作曲家が遠くにそびえ立つカンタベリー大聖堂に向かって近づいていく光景なのだろうか。自分自身、大聖堂といえば、1997年のロンドン滞在時に訪れたセントポール大聖堂を思い出すが、大都会ロンドンの街に歴史と伝統が共存すると感じたのは、この大聖堂を見たときだった。
その内、徐々にクレッシェンドで盛り上がり、全合奏によるフル・サウンドへ。このライヴ盤には、オリジナルにはないパイプオルガンがオプションで加えられており、ここでは、大阪のザ・シンフォニーホールの壮大なオルガンサウンドが鳴り響くのが聴こえる。それは作曲家がカンタベリー大聖堂の中に入った時に、大聖堂の荘厳なオルガンが鳴り響いていた情景を描いたシーンのようにも感じる。
自分自身、セントポール大聖堂でパイプオルガンが天井から鳴り響くのを聴いたとき、まるでオルガンのシャワーを浴びているような感覚だった。この「カンタベリー・コラール」もパイプオルガンが加わることで、その壮大さがより伝わってくる。大聖堂でパイプオルガンや聖歌隊を聴くのと同様、吹奏楽のサウンドでも敬虔な気持ちさせてくれる曲がある事を自分自身、再発見したと同時に、改めて感銘を受けた。
なお、実際にカンタベリー大聖堂をHPで見てみようと探していると、公式サイトで動画が公開されているのを見つけた。大聖堂の一日の様子を追った美しい映像を見た後に改めてこの曲を聴くとまた感慨深い。

大阪市音楽団の演奏は、以前エントリーしたJ.バーンズの交響曲と同様、作曲家の思いを忠実に反映した感動的なサウンドを聴かせてくれる。ヴァンデルローストも、このライヴ録音のリリースにあたっては太鼓判を押したに違いない。FONTECによる高品位なライヴ収録も素晴らしい。

最近、久しぶりに集まった高校時代の吹奏楽部の同期会で、この話をしたところ、「カンタベリー・コラール」に影響を受けて、スイス留学の際に、実際にこのカンタベリー大聖堂を訪れたという友人がいたことにびっくり!それだけ、この曲は多くの人々に今でも大きな感動を与えているのだろう。

1993年の吹奏楽版の出版時といえば、ちょうど自分が高校卒業した年。もう少し、出版が早ければ、自分の現役時代に演奏ができたのかもしれない。今や押しも押されぬ人気作曲家となったヴァンデルローストの今後の活躍にも注目していきたい。